研究領域 | 生命分子システムにおける動的秩序形成と高次機能発現 |
研究課題/領域番号 |
16H00779
|
研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
池谷 鉄兵 首都大学東京, 理工学研究科, 助教 (30457840)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | In-cell NMR / 蛋白質立体構造解析 / 常磁性効果 / ランタノイド金属 |
研究実績の概要 |
本課題では,細胞内の動的秩序形成機構解明に向けて,細胞中の構造・ダイナミクスと,他の分子との相互作用機構をin-cell NMR を用いて明らかにし,生体高分子の細胞内での構造・運動性・相互作用の包括的理解を目指している. 今年度は,生きた大腸菌を用いたin-cell NMR 解析において,新規手法の開発に成功し,従来法より遥かに低い細胞内濃度においても高精度の蛋白質立体構造決定が可能であることを示した.本成果は,学術専門誌 Sci. Rep. 6, 38312 (2016)に報告した.この細胞内蛋白質構造解析法は,信号再構成,自動信号帰属,蛋白質立体構造計算の3つの過程で,アルゴリズムの改良を行うことで,従来法からの大きな改善を達成した. ヒト培養細胞(HeLa細胞)を用いたin-cell NMR 解析においては常磁性効果を用いることにより新たな構造情報の習得を試みている.本年度は,細胞内の還元環境下においても安定してランタノイド金属を保持することのできるヨードアセトアミド型 DOTA-M8タグの合成に成功し,細胞内蛋白質のpseudo-contact shift (PCS)の観測に成功した.また,PCSデータの解析結果を学術専門誌 J. Biomol. NMR 66, 99-110 (2016)に報告した.HeLa細胞を用いた解析では,さらに3次元NMR測定に成功し,蛋白質主鎖の原子核共鳴シグナルの帰属にも成功している.現在,本成果の学術専門誌への発表に向けて準備を進めている. 昆虫培養細胞Sf9を用いたin-cell NMR解析では,初めて真核細胞内の蛋白質のde novo立体構造決定に成功した.本成果についても,学術専門誌への発表に向けて準備を進めている.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大腸菌を用いたin-cell NMR構造解析では,de novo蛋白質構造決定において,2009年の世界初の細胞内立体構造決定に続き,世界で2番目となる生きた細胞中での蛋白質立体構造決定に成功し学術専門誌に発表した.ヒト培養細胞を用いたin-cell NMR 解析においても,蛋白質主鎖シグナルの帰属,および細胞内蛋白質のPCSの観測といった成果が得られており,いずれも学術論文誌にすでに発表,もしくは発表準備中の段階にある.昆虫培養細胞Sf9中の蛋白質立体構造決定では,初のde novoによる真核生物内蛋白質構造決定に成功しており,本成果についても学術論文を準備中である.以上の点より,細胞内蛋白質構造解析の基礎技術開発の観点では,本年度は大きく進展した. 一方,これらの手法開発の研究においては,モデル蛋白質を使用して手法の有効性を検証してきたが,今後は生物学的により重要な蛋白質をターゲットに進めていく必要がある.現在,細胞シグナル伝達経路に関与する複数の蛋白質の解析を進めている.1つの蛋白質は,活性部位において構造多形を持つことが知られており,細胞内でどのような構造分布を持つか解析を進めている.ヒト培養細胞内でのin-cell NMR シグナルの観測には成功しているが,感度が不十分であり,構造を議論できる段階に達していない.したがって,現在,選択的安定同位体標識法を用いた部位特異的な計測を進めている.もう1つのターゲット蛋白質は,複数のドメインが柔らかいリンカーでつながったマルチドメイン蛋白質である.細胞内でのドメイン間の配向構造を明らかにするためのPCS測定を試みている.蛋白質試料調製は終了し,次元度はNMR測定と構造解析を試みる.
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は,現在解析を進めている細胞シグナル伝達経路に関与する複数の蛋白質の解析に重点を置き,より応用的な研究を加速させる.現在,試料調製を進めている段階であり,今年度中にNMR測定・データ解析を進め,本課題の目指す,細胞内での動的な秩序機構の解明につなげられる成果を達成することを目標とする. 領域内の共同研究として,蛋白質の細胞内への新たな導入手法の開発と,蛋白質立体構造計算解析の高速化アルゴリズムの開発を進めているが,これらは進展がやや遅れ気味である.今年度は,この2つのテーマについても一層の研究促進につなげていく.
|