公募研究
細菌の細胞分裂において、FtsZは細胞膜の内側に沿ってGTP依存的にフィラメント構造を形成し、ダイナミックに離合集散を繰り返すことで、細胞膜の陥入を引き起こす。本研究では、「ダイナミックなFtsZの構造ゆらぎが、いかにして膜分裂の駆動力となるのか?」を分子レベルで解明し、細胞分裂の分子機構モデルを構築することを目的とする。まず、新たな条件で黄色ブドウ球菌FtsZの結晶化・構造解析を行った。その結果、同一結晶の中に、FtsZは大きく立体構造の違う2種類で存在していることが分かった。結晶内のFtsZフィラメント構造から判断して、2種類の構造はそれぞれフィラメント構造を形成・解離する構造に相当することが予想された。さらにこの異なる立体構造が変換しうるのか、またどのように変換するかを予測する目的で分子動力学計算を行った。その結果、多段階で起きる構造遷移を捕らえることができた。さらにこの構造遷移で鍵となるアミノ酸を変異させると、GTPase活性がなくなり上述の構造変化も見られなくなった。これらの結果から、FtsZのフィラメント構造形成の分子モデルを構築して論文にまとめた。さらに、MRSA FtsZの阻害剤開発にも取り組んだ。これまで開発されてきたMRSA FtsZ阻害剤は、耐性を獲得した変異体によってその薬効を消失させるが、最近その変異体に結合できる化合物を共同研究者であるラトガース大学のチームが開発した。その新規化合物と変異体との複合体の構造解析を行い、その結合構造を決定することができた。新規化合物は過去に報告された阻害剤と同じ結合ポケットに結合していたが、興味深いことにその結合構造は異なっていた。この成果によってFtsZの新たな創薬基盤を構築することができた。
2: おおむね順調に進展している
(1)FtsZの構造変換の分子メカニズム解明、(2)構造変換しにくい(または、しやすい)FtsZ変異体の作製とその構造機能解析、(3)FtsZの阻害剤開発 を目的として研究計画を立てていたが、(1)、(2)、(3)それぞれにおいて進展が見られ、(1)、(2)については、得られた成果を元に論文に纏めることができ、また(3)においても現在論文を投稿中である(Reviewer’s commentsでは3名のReviewer共にポジティブな意見)。よって、おおむね順調に進展していると考えている。
上述の(1)、(2)を更に詳細に検証すべく、今後は高速AFMでの観察も行う予定である。これまでの予備実験で、MRSA FtsZが分子集合する様子を初めて捕らえることができた。今後は、これまで作製してきた変異体や、GDPを完全に除去したリフォールディングサンプルを用いて、詳細にフィラメント形成の速度論的解析を行う予定である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 4件)
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