研究実績の概要 |
細菌の細胞分裂は、細胞中央部の細胞膜の内側に沿って細胞分裂タンパク質FtsZがリング状に重合し、そのリングの収縮が起きることによって起こる。この収縮の過程において、FtsZは離合集散を繰り返すと考えられてきたが、その詳細なメカニズムは不明であった。そこで、黄色ブドウ球菌FtsZに着目して結晶化・構造解析を行った。その結果、幸運なことに同一結晶の中に、FtsZは大きく立体構造が2種類で存在していることが分かった。結晶の中のフィラメント構造から判断して、それぞれフィラメント構造を形成・解離する形に相当することが予想された。これによって、FtsZがフィラメント形成状態と解離状態の両方の状態を同時にとりうるという新たな知見が得られた。さらに、この異なる立体構造がどのように構造が遷移していくか観測する目的で分子動力学計算を行った。これは新学術領域内の共同研究によって得られた成果で、多段階で起きる構造遷移を捕らえることができた。さらにこの構造遷移で鍵となる相互作用をアミノ酸変異によって形成できなくすると、GTPase活性もなくなり上述の構造変化も見られなくなったことから、FtsZのフィラメント構造形成の分子モデルを新たに構築でき、論文にまとめた(J. Struct. Biol., 2018)。 また、黄色ブドウ球菌FtsZは、MRSAの薬剤ターゲットでもある。そこで、ラトガース大学Pilch教授と共同でFtsZ阻害剤を開発した。新規阻害剤とFtsZの複合体のX線構造解析を行ったところ、阻害剤は新しいコンフォメーションでFtsZの疎水性クレフトに結合していることが分かった。この構造基盤を元に薬剤耐性FtsZに阻害効果が見られる阻害剤を設計・合成することができ、黄色ブドウ球菌に対抗する薬剤開発に関する構造基盤が得られた(ACS Chem. Biol., 2018)。
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