X線溶液散乱を用いて時計タンパク質(KaiC)の分子内対称性や動態を精査した。6量体の分子内対称性に起因する広角領域の相関ピークを中心に、測定の条件や対象(KaiC変異体)を変えながら観察を実施した。独自に整備したソフトウェアを用いて注意深く解析したところ、リン酸化やATPaseの状態に応じて6量体の分子内対称性が変化することが示唆された。KaiCの構造モデルの構築を試みたが、取得した広角散乱曲線に合致するモデルは未だ見出されていない。これには2つの可能性が考えられる。一つは、構造の異なる複数の状態が系中に混在しており、それらの平均値として観察された広角散乱曲線と唯一の構造モデルが合致しない場合である。液中高速AFMを用いた観察からも、分子内対称性の異なる分子が含まれていることが確認されている。これらの観察を受け、研究協力者とともにKaiCの分子動力学計算を実施し、複数分子種からなるアンサンブルとして広角散乱曲線を再評価した。その結果、広角散乱曲線の変化を分子内対称性の変化と対応付けることに成功した。二つめは、KaiCの6量体構造が想定以上に大きく変化している場合であり、これは中角領域の散乱曲線が変化するという観察結果からも支持される。既報の結晶構造解析をもとにした分子動力学計算からは容易に探索されない構造であるため、新たに取得した結晶構造をもとに探索したところ、該当する構造アンサンブルが幾つか得られつつある。
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