前年度までに、ポルフィリン誘導体の速度論的な自己集合挙動を報告している。このポルフィリン誘導体は、まず準安定なナノ粒子状集合体を形成し、その後、時間発展的に形態転移する。興味深いことに、ナノ粒子状集合体の溶液に超音波を照射すると1次元のナノファイバーへと形態転移するが、一方、ナノ粒子状集合体の溶液を撹拌していると2次元のナノシートが生じる。それぞれの集合体の熱力学的安定性からエネルギーランドスケープを描くことができ、これによって複雑な形態転移のメカニズムを説明することができた。
今年度は、上記の形態転移の経路を、構造が異なるポルフィリン分子を共存させることによって制御できることを見いだした。
以前の研究から、ナノシートはナノ粒子をon-pathway中間体として形成されることがわかっている。構造がわずかに異なるポルフィリン誘導体が共存すると、2種類のポルフィリンが共集合し、準安定なナノ粒子状集合体を形成する。2種類のポルフィリンから形成されるナノ粒子は、ナノシートのon-pathway中間体として機能できなくなり、結果として、撹拌下においても1次元のナノファイバーを生じることがわかった。このように、on-pathwayとoff-pathwayが競合する場合には、系に対してのわずかな摂動によって容易に経路が切り替わる可能性がある。特に、on-pathway中間体は鋭敏に応答する。この知見は、自己集合の経路を理解・制御する上で非常に重要である。
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