研究実績の概要 |
細胞膜の受容体蛋白質が細胞外情報に応答して動的に会合体の組み替えを起こし、細胞内外の蛋白質分子との特異的な反応場を形成する過程の理解を目標として研究を行っている。細胞膜における、上皮成長因子受容体(EGFR)・代謝型グルタミン酸受容体(mGulR)の1分子動態を研究対象とする。本年度は、脂質による膜受容体の会合制御機構と、膜受容他の会合・運動状態と信号伝達の関係を研究した。 EGFRが不飽和脂質・コレステロールに富む膜ドメインに局在するという報告があるが、生理機能との関連は不明な点が多い。またEGFRの内側細胞膜近傍ドメイン(juxtamembrane, JM-domain)と酸性脂質の相互作用も報告されている。EGFR-GFPを安定発現するCHO細胞をmethyl-beta-cyclodextrinで処理することにより、細胞膜のコレステロール濃度を30%程度まで低下させ、EGFRのリン酸化、会合状態を計測した。EGF依存的なEGFRのリン酸化が昂進するのに対し、EGFRの高次会合体形成は抑制されることが分かり、コレステロールの複雑な役割が示唆された。また、再構成膜系においては、酸性リン脂質をEGFRの膜近傍ドメインの相互作用によりEGFR2量体の形成が促進されることが分かった。膜近傍におけるリン酸化は、酸性脂質との相互作用に依存して2量体形成を阻害する。 mGluRでは分子の活性と膜上での側方拡散運動に高い相関関係があることを明らかにした。活性状態では拡散係数が上昇する。これはmGluRのみならず多くのGPCRに一般的な現象であることを確認した。さらに様々なアゴニスト分子を有するGPCRの一種アドレナリン受容体では、アゴニスト毎に拡散状態が変化し、アゴニスト間のシグナルバイアスとの相関が示唆された。
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