1.リニア分子モーターキチナーゼのキチナーゼの運動方向性を変える試み キチナーゼには、キチンを還元末端および非還元末端から分解するChiAとChiBの二種類が存在する。キチナーゼの運動方向性を決める仕組みを明らかにするため、野生型の酵素をどこまで改変しても一方向に運動できるのかの検証を行った。まず、ChiAのキチン結合モジュールの表面に存在する芳香族アミノ酸をアラニンに変異させたChiA W69A、およびChiA W69A/W33Aを作製した。高速AFM1分子観察の結果、これらの変異体は野生型と同じ方向に運動することが明らかとなった。また生化学アッセイにおいて、野生型よりも有意に低いキチン分解活性を示した。しかしながら予想外に、高速AFM1分子観察では野生型よりも高い運動速度を示した。この結果から、キチンへの親和性(結合速度定数)と運動速度にトレードオフの関係があることが示唆された。現在、このトレードオフの関係を実証するため、1分子蛍光観察により結合速度定数の定量計測を行っている。 2.リニア分子モーターキチナーゼの1分子計測 キチナーゼの運動素過程である1ナノメートルのステップを可視化することに成功した。また、様々な基質結合状態のキチナーゼのX線結晶構造解析、および決定した構造を元にした全原子分子動力学シミュレーションを行い、基質結合サイトにおける糖鎖のダイナミックな動きと結合エネルギーを見積もることに成功した。これらの複合的な取り組みにより、キチナーゼの化学力学共役の素過程の詳細を解明することに成功した。さらに、キチナーゼの一方向性の運動のメカニズムとして“Burnt-bridge”機構を提案した。これらにより、キチナーゼがセルラーゼに比べて10倍速い速度で運動する仕組みを明らかにした。
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