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2016 年度 実績報告書

細胞組織の動力学の理解へ向けた自己駆動粒子の集団運動の解析

公募研究

研究領域ゆらぎと構造の協奏:非平衡系における普遍法則の確立
研究課題/領域番号 16H00793
研究機関東北大学

研究代表者

義永 那津人  東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 准教授 (90548835)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2018-03-31
キーワードアクティブマター / 細胞運動 / 生物物理 / ソフトマター / 非平衡 / 非線形ダイナミックス
研究実績の概要

本年度は、squirmerやjanus粒子などの流体を伴った自己駆動粒子の集団運動の解析を行った。アクティブマターの主要テーマとして、active Brownian粒子と呼ばれる、極性方向に自己推進運動する粒子の集団運動の解析が現在世界中のグループで行われている。しかし、これらのモデルでは運動保存を満たしておらず。力学的バランスを厳密に考察することはできない。また、実際の粒子の運動は流体の運動を伴うため、流体力学的相互作用を無視することはできない。我々は、自己駆動粒子間の流体力学的相互作用を解析的に計算し、それらの結果を用いて数値計算を行った。粒子数、密度、そしてforce dipoleの強度を変化させて系統的に集団運動を解析することで、系全体が整列するglobal polar orderが実現するメカニズムについて明らかにした。この結果は、現在修正を重ねて再投稿中である。
また、慶應義塾大学の藤原慶氏と共同で、大腸菌の細胞分裂に重要な役割を果たすMinたんぱく質の人工合成系におけるたんぱく質の局在と波の伝搬について理論的に解析を行った。膜面上の二次元でのたんぱく質の分布と、球状の膜と内部三に存在するたんぱく質の濃度場が従う反応拡散方程式を解析することによって、実験で見られる波の伝搬を再現することができた。ベシクルのサイズや、たんぱく質の総量を変えることによって、この波がWave Instabilityによって現れることを明らかにした。これは、一様静止状態が不安定化し、一様振動が現れる前に、有限の波数を持った波が不安定化することを示している。ベシクル内部の濃度場のダイナミックスが十分速いとして、膜面の濃度場のダイナミックスに注目することによって、波の出現を予測することができる。また、上記のモデルの直接数値計算も行い、実験で得られた波のパターンを得ることができている。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

自己推進粒子の集団運動については、流体相互作用を考慮したsquirmerモデルの集団運動の解析と論文の修正にに予想以上の時間がかかったが、その半面、レフェリーからの厳しい意見に対して論文を修正する過程で、流体力学や集団運動に関する基礎的な理解が深まった。特に、流体力学については、このような粒子分散系における流体の効果には、様々な議論がありながら非常に理論的に複雑であるために、多くの誤解が蔓延している。我々の手法と、他の手法との比較を詳細に行うことによって、様々な手法の長所、短所や適用範囲などを整理できたのはよい収穫であった。これらの知識は、流体が伴う他の系でも応用できると考えられ、結果的には今後の研究の発展に結びつけることができそうである。
また、液晶の自由度を入れたアクティブ液滴の運動についても、まず数値計算手法は確立しており、現在データの収集を行っている。解析的な計算に関しては、液晶の解析解の構成にやや苦労しており、一般性をやや犠牲にして近似解を構成していく必要があることが分かってきている。
Minたんぱく質におけるパターン形成に関しては、現在までに、実験で見られたパターンのパラメーター依存性を半定量的に再現することができている。MinDとMinEの二種類のたんぱく質の総量に対する相図を、直接数値計算と安定性解析の両面から明らかにしており、実験で見られる傾向を再現できている。現在のモデルは非常に複雑であるために、今後は、本質的なパラメーターの同定を行うことによって、生物学的に重要な反応経路を明らかにしていきたい。

今後の研究の推進方策

今後は、自己駆動粒子の集団運動の普遍的理解のために、squirmerの場合に得られた解析結果を基に流体記述を試みる。興味深いことに、現在までの結果は、従来提案されていた、流体効果によるglobal polar orderの消滅を否定している。これには、流体の遮蔽効果が重要な役割を果たしていると考えられる。そのため、遮蔽の理論的なメカニズムの解明のために、どのような物理量を測定すべきかを、可能な流体記述をいくつか試すことによって特定していく作業を行っていく。また、squirmerはある種理想化された自己駆動粒子のモデルであるため、より実験的に実現可能なjanus粒子などのモデルにおいての集団運動についての解析も進めていきたい。さらに、変形も考慮に入れた自己駆動液滴を用いることによって、細胞組織のように個々の細胞が変形しながら運動する系での力学的な性質について調べることが可能になるのではないかと考えている。
Minたんぱく質における非線形波の理論的研究については、現在のモデルは非常に複雑で、解析的な取り扱いが困難で根本的な理解が進みにくい。そのため、膜面上の遅い拡散と、膜内部の速い拡散という基本的な要素だけを入れて、3変数を用いた簡略モデルの解析も進め、ベシクルの形状によって、定在波と回転波が選ばれる条件を明らかにしていく。これにより、非常に複雑なMinたんぱくのパターン形成の問題を二段階に分けて、(i) 分子レベルからwave instabilityの標準形の係数を決める階層と、(ii) 標準形が持つ普遍的性質、特に膜の形状依存性などによるパターンの選択について解析を進めていく。

  • 研究成果

    (18件)

すべて 2017 2016 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 6件、 招待講演 6件) 図書 (1件) 備考 (3件)

  • [国際共同研究] Bristol University(英国)

    • 国名
      英国
    • 外国機関名
      Bristol University
  • [雑誌論文] Collision between chemically-driven self-propelled drops2016

    • 著者名/発表者名
      Shunsuke Yabunaka and Natsuhiko Yoshinaga
    • 雑誌名

      Journal of Fluid Mechanics

      巻: 809 ページ: 205-233

    • DOI

      https://doi.org/10.1017/jfm.2016.602

    • 査読あり / 謝辞記載あり
  • [学会発表] アクティブ液晶の自発運動と変形2017

    • 著者名/発表者名
      義永 那津人
    • 学会等名
      日本物理学会第72回年次大会
    • 発表場所
      大阪大学豊中キャンパス(大阪府豊中市)
    • 年月日
      2017-03-17 – 2017-03-20
  • [学会発表] Theory of Active Soft Materials2017

    • 著者名/発表者名
      Natsuhiko Yoshinaga
    • 学会等名
      The AIMR International Symposium 2017 (AMIS2017)
    • 発表場所
      Sendai, Japan
    • 年月日
      2017-02-13 – 2017-02-17
    • 国際学会
  • [学会発表] The Hydrodynamic Interaction and Collective Behaviors of Self-Propelled Particles and Drops2017

    • 著者名/発表者名
      Natsuhiko Yoshinaga
    • 学会等名
      Gordon Research Conference: Complex Active & Adaptive Material Systems
    • 発表場所
      Ventura, CA, USA
    • 年月日
      2017-01-29 – 2017-02-04
    • 国際学会
  • [学会発表] 非平衡ソフトマテリアルの構造形成と不均一性2017

    • 著者名/発表者名
      義永 那津人
    • 学会等名
      第1回MathAM-OIL企業連携ワークショップ
    • 発表場所
      TKPガーデンシティPREMIUM神保町(東京都千代田区)
    • 年月日
      2017-01-23 – 2017-01-25
  • [学会発表] The Hydrodynamics and Collective Behaviours of Self-Propelled Active Systems2017

    • 著者名/発表者名
      Natsuhiko Yoshinaga
    • 学会等名
      A3 Workshop on Soft Matter 2017
    • 発表場所
      Tohoku University, Japan
    • 年月日
      2017-01-18 – 2017-01-20
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] The hydrodynamic interaction and collective behaviours of self-propelled particles and drops2016

    • 著者名/発表者名
      Natsuhiko Yoshinaga
    • 学会等名
      International Workshop on Hydrodynamic Flows in/of Cells
    • 発表場所
      Tokyo Metropolitan University, Japan
    • 年月日
      2016-11-24 – 2016-11-24
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] The Hydrodynamic Interaction and Collective Behaviours of Self-Propelled Particles and Drops2016

    • 著者名/発表者名
      Natsuhiko Yoshinaga
    • 学会等名
      Current and Future Perspectives in Active Matter
    • 発表場所
      The University of Tokyo, Japan
    • 年月日
      2016-10-28 – 2016-10-29
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 化学反応によって駆動される液滴の自発運動と集団挙動2016

    • 著者名/発表者名
      義永 那津人
    • 学会等名
      集団ダイナミクスに現れる時空間パターンの数理
    • 発表場所
      京都大学数理解析研究所(京都府京都市)
    • 年月日
      2016-10-12 – 2016-10-14
    • 招待講演
  • [学会発表] 化学反応による液滴の運動とアクティブ液晶2016

    • 著者名/発表者名
      義永 那津人
    • 学会等名
      日本物理学会2016年秋季大会
    • 発表場所
      金沢大学(石川県金沢市)
    • 年月日
      2016-09-13 – 2016-09-16
    • 招待講演
  • [学会発表] 自己駆動粒子とそれらの集団運動における流体力学の役割2016

    • 著者名/発表者名
      義永 那津人
    • 学会等名
      札幌非線形科学研究会
    • 発表場所
      北海道大学(北海道札幌市)
    • 年月日
      2016-08-30 – 2016-09-01
  • [学会発表] The Collective Behaviors of Self-Propelled Particles and Drops through hydrodynamic interactions2016

    • 著者名/発表者名
      Natsuhiko Yoshinaga
    • 学会等名
      Patterns and Waves 2016
    • 発表場所
      Hokkaido University, Sappro, Japan
    • 年月日
      2016-08-01 – 2016-08-05
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] The Collective Behaviors of Self-Propelled Particles and Drops through Hydrodynamic Interactions2016

    • 著者名/発表者名
      Natsuhiko Yoshinaga
    • 学会等名
      第3回領域研究会
    • 発表場所
      九州大学伊都キャンパス(福岡県福岡市)
    • 年月日
      2016-06-17 – 2016-06-19
  • [図書] 材料表面の親水・親油の評価と制御設計 第5章 界面自由エネルギーから運動エネルギーへの変換 第7節 温度勾配が駆動する粒子の運動~ Ludwig-Soret effect~2016

    • 著者名/発表者名
      義永 那津人
    • 総ページ数
      600(279-286)
    • 出版者
      テクノシステム
  • [備考] 研究代表者による研究内容に関するwebページ

    • URL

      http://www.wpi-aimr.tohoku.ac.jp/~yoshinaga/

  • [備考] ResearcherID

    • URL

      http://www.researcherid.com/rid/G-3067-2011

  • [備考] ResearchGate

    • URL

      https://www.researchgate.net/profile/Natsuhiko_Yoshinaga

URL: 

公開日: 2018-01-16   更新日: 2022-01-31  

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