細胞組織では、個々の細胞が自発的に運動・変形しながら集団で構造と機能を実現している。個々の細胞を正確に記述するのは非常に複雑であるが、自発的に運動する物体の集団に注目すると、個々の物体の個性は重要ではなくなり、ある種の普遍的な集団運動が実現されることが期待される。本年度は、これらの自己駆動粒子の理論モデルについて、最近の主要な研究結果をまとめた総説をJournal of Physical Society Japanに出版した。 我々は、自己駆動粒子の中でも、周囲の流体の運動を伴うものに注目し理論的研究を行ってきた。各粒子が周囲の流体を駆動するsquirmerや、非等方な化学反応によって粒子周辺に温度や濃度の勾配を作ることによって運動する自己泳動現象に注目してきている。これらのモデルでは流体力学的相互作用を考慮する必要があるが、流体中で粒子が運動する懸濁液の動力学の理論的な解析は、数値計算であっても非常に困難である。我々は、流体相互作用を様々な粒子配置に対して系統的に計算することによって、近距離での相互作用がsquirmerの集団配向に重要な役割を果たすことを明らかにした。また、近距離の流体相互作用のみを取り入れた簡略化モデルを提案し、排除体積相互作用が重要な役割を果たすことを明らかにした。本研究はPhysical Review E誌の速報として掲載済みである。 また、新学術研究内の共同研究として慶応大学の藤原慶氏のグループと共同で、大腸菌のMinたんぱく質が膜面上で示す振動現象についての理論的解析を行った。膜面と細胞内部の濃度場の双方を考慮したモデルを解析することによって、実験で見られる回転波、極の間を行き来する定在波を再現することができた。また、球状であっても、対称性を破って定在波を形成することも示した。これらの結果は実験結果と定性的に一致しており、現在論文作成中である。
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