研究領域 | ゆらぎと構造の協奏:非平衡系における普遍法則の確立 |
研究課題/領域番号 |
16H00794
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
齋藤 一弥 筑波大学, 数理物質系, 教授 (30195979)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ガラス転移 / 液体構造 |
研究実績の概要 |
DCHMの液体構造を解明した.分子液体のX線散乱に依る構造解析の手法について検討を行った.通常採用される解析には①複数の種類(3種類以上)の原子が含まれる場合に扱いが近似的になる,②原子を基本とした構造記述となり,分子を単位とした情報を抽出しにくい,③原子を基本とした解析を行うため必要となる散乱ベクトルの範囲が非常に広い,という困難がある.これらを回避し,特に分子を基本にした液体構造の記述を得るために,あらかじめ配向平均を施した平均分子形状因子を用いて散乱データを解析することを考案した.DCHMとTCHMの融点以上の散乱データの解析を行った.分子直径とそれからできる構造を記述するのに十分と思われる狭い範囲の散乱ベクトルのデータのみを用いたが,いずれの物質の場合も分子直径を「周期」とする動径分布関数が得られ,考案した方法の妥当性が確認できた.しかも,TCHMでは動径分布関数の極大位置が等方的熱膨張に対応して一様に温度依存したのに対し,DCHMでは最近接分子間距離を反映する第一極大の温度依存性が熱膨張を反映する他の極大のそれにくらべて約1/3であった.この結果は,液相で分子間水素結合をほとんど持たないTCHMと顕著に水素結合が残るDCHMの違いを良く反映しており,考案した解析法の有効性を示すものである. トランス・トランス形ジヘキシル置換DCHMの合成を完成させ,キャラクタリゼーションを開始した.全フッ素置換DCHMの合成も検討したが実現には到らなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定した見地得項目のうち,DCHMの液体構造の解明に成功し,水素結合を持たないTCHMとの明確な差異を実証することができた.これは,解析方法についてX線回折に依る液体構造解析に一石を投じることができたと考える.一方で,合成した置換DCHMのガラス形成能が大きくないことがわかってきたため,研究方針の一部見直しが必要となっている.
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今後の研究の推進方策 |
トランス・トランス形ジヘキシル置換DCHMのガラス転移の可能性を引き続き検討するが,ガラス化が困難が比較的難しいという感触を得ている.このため,次年度は安定にガラスが形成されるDCHMと形状が比較的近いTCHMの混合系を検討対象に加え,平均分子形状の連続的変化の観点から検討を進めて研究をとりまとめることを予定している,.
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