研究領域 | ゆらぎと構造の協奏:非平衡系における普遍法則の確立 |
研究課題/領域番号 |
16H00804
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
坂上 貴洋 九州大学, 理学研究院, 助教 (30512959)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 異常拡散 / 能動拡散 / 染色体動態 / ソフトマター / 非平衡揺らぎ / レオロジー |
研究実績の概要 |
細胞内の染色体動態は遺伝子発現のダイナミクスと密接に関係しており、生命現象の理解に於いて重要な問題である。近年、これについて一分子測定による実験報告が多数為されてきている。典型的な実験では、染色体上の特定の遺伝子座を蛍光ラベルし、その遺伝子座の運動を長時間観測するが、そこで見られる運動の様子は通常のブラウン運動とは大きく異なることが分かってきている。本研究では、非熱的ノイズに駆動される高分子のダイナミクスという視点から、染色体ダイナミクスに見られる異常拡散現象を捉えることを試みた。 まず注目した点は、熱平衡下にある高分子鎖上のラベルモノマーに見られる遅い拡散現象である。これは冪的な記憶項をもつ一般化ランジュバン方程式により記述されるが、その本質は鎖に沿った張力伝播による協働運動領域の増大であることを明確にし、そのような視点からラベルモノマーの遅い拡散を議論した。ここで導出した公式により、平均二乗変位の時間依存性を記述する拡散指数において、鎖状分子の「連結性」の効果がどのように効いてくるかを明確にした。 上記の議論は熱平衡下、粘性溶液中の単一高分子を対象にしたものであり、これを生きた細胞内の染色体へと適用するには様々な複雑要因を考える必要がある。今年度は、中でも重要であろう因子として(i)媒質の粘弾性、(ii)鎖の非交差性に由来するトポロジカルな効果、(iii)細胞内の能動過程による非熱的ノイズの効果の3点に注目し、これらを上記の理論的枠組みに取り込み、遺伝子座(染色体上のラベルモノマー)の平均二乗変位を記述するスケーリング理論を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年実験が報告されつつある遺伝子座の異常拡散現象は、染色体の動態の解明に向けて重要な知見を提供しており、同時に非平衡統計物理学の視点からも極めて興味深い研究対象である。これに関する先駆的な理論を構築することは本研究課題の大きな目的であり、それに向けて大きく研究を進展することが出来たと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
遺伝子座の能動拡散をはじめとした染色体の動態についての研究は、実験との比較も視野に入れながら今後も推進していきたい。また、ソフトマターや生体系における異常拡散現象の背後には、高分子系における「張力伝播」、もしくはより一般には「協働運動領域の増大」のダイナミクスが潜んでいることが多く、そのような視点から様々な異常なダイナミクスの解明を行っていきたい。
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