研究領域 | ゆらぎと構造の協奏:非平衡系における普遍法則の確立 |
研究課題/領域番号 |
16H00805
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
前多 裕介 九州大学, 理学研究院, 准教授 (30557210)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アクティブマター / マイクロフルイディクス / パターン形成 / 非平衡物理学 / 相転移現象 |
研究実績の概要 |
エネルギーを費やし運動する粒子をアクティブマターとよび、その特徴の1つは集団となったときに現れる空間的に秩序だった集団運動である。本研究では、代表的なアクティブマターであるバクテリア大腸菌を用いて、細胞間の配向相互作用と境界条件の設計から集団運動の制御を行った。 細胞集団を円形や2つの円が重なったピーナッツ型の境界をもつマイクロウェルに封入したところ、それぞれのウェルで単一渦や2つの渦が共存する渦ペアの集団運動が出現した。渦の方向は時計/反時計回りの2種があるため、渦ペアのパターンには同じ回転方向の渦ペア(強磁性的)と反対向きの渦ペア(反強磁性的)が生じることがわかり、その転移点はマイクロウェルのサイズによらず、ある一つの形状パラメータによって決定される事を見いだした。この実験結果を説明するため、極性相互作用する自己駆動粒子の集団運動モデルをもとに、その運動方向の確率分布をFokker-Planck方程式から解析的に求めた。その結果、2つの渦ペアパターンが等確率で生じる幾何形状が、実験における転移点の境界形状と一致する事が明らかとなった。境界形状は渦運動を安定化するとともに、渦間での配向相互作用のゆらぎを抑制するという2つの効果を持つ事を意味すると考えら得る。 さらに、明らかになった集団運動パターンの設計原理をもとに、より複雑な4つの円が重なるクローバー型のマイクロウェル内での集団運動を解析した。その結果、理論的な予測通りに全ての渦ペア間が強磁性的あるいは反強磁性的なパターンが転移点を境にして存在し、さらに転移点近傍ではそれらが共存する状態が出現する事を観測した。以上の事から、境界形状の単一パラメータを設計するだけで、集団運動のパターンを制御しうることが明らかとなった。得られた結果は現在論文にまとめており、まもなく投稿される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
境界形状に誘起される渦ペアのパターンとその転移に関する解析解は実験結果と良い一致をみせ、集団運動がただ1つの形状パラメータで決定される事を明らかにした点は、当初の計画通りもしくは予想以上の進展と考えられる。当該結果はまもなく論文投稿される予定であり、計画通りである。さらに、光による局所的な制御に向けた実験準備も整っており、計画に掲げた研究項目のいずれもが順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
研究経過は順調であり、当初計画通りに平成29年度の研究を遂行する予定である。具体的には、集団運動のパターンを速度場としてではなく、個々の細胞の極性方向を計測することで、より微視的なレベルでの理解を目指す。バクテリアの配向は蛍光顕微鏡で1細胞を個別に検出し、指数±1/2の欠陥、指数+1の欠陥(渦)や指数-1の欠陥(サドル)を調べる。さらに位相欠陥の重心速度の相関関数および平均二乗変位を求め、ダイナミクスを特徴付ける。集団運動の位相欠陥ダイナミクスを理論的にも解析するため、モデルは(a)配向場、(b)粒子の移流拡散方程式、(c)流れのストークス方程式の3つを考慮する。実験においては位相欠陥の重心を求め、理論モデルとの速度相関関数、平均二乗変位との一致を比較・検討する。 次に、局所的な温度勾配下でバクテリアが高温側に向かってすすむ走熱性を利用し、レーザー集光で一部のバクテリアの向きを制御し、「点欠陥」を人為的に作成する。制御された配向場のもとでの集団運動を計測することで、局所的な配向制御が系全体に及ぼす影響を明らかにする。以上の研究を通じ、境界形状さらに局所的な位相欠陥がアクティブマターの集団運動に果たす役割を解明する。
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