研究領域 | ゆらぎと構造の協奏:非平衡系における普遍法則の確立 |
研究課題/領域番号 |
16H00807
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
坪田 誠 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (10197759)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 量子乱流 / 量子渦 / 超流動ヘリウム / 原子気体ボース・アインシュタイン凝縮 |
研究実績の概要 |
低温物理学における重要テーマの一つである量子流体力学を、非線形・非平衡物理学の観点から、理論的および数値的に研究する。舞台となる系は、原子気体ボース・アインシュタイン凝縮体(BEC)および超流動ヘリウムである。今年度は特に、超流動ヘリウムの2流体完全結合のダイナミクスの数値的研究に力を注いだ。系が、非粘性の超流体と粘性を持つ常流体から成るという2流体モデルは、1941年のTiszaおよびLandauの提案以来、超流動ヘリウムの物理を解明する上で大きな貢献をしてきた。しかし、その2流体の運動を連立させて解くという研究は、ほとんど行われたことがない。最も典型的な方法は、超流体の運動を量子渦糸モデルで扱い、常流体をナヴィエ・ストークス(NS)方程式で扱うものだが、1980年代以来、ほとんどの数値的研究は、固定した常流体の下、量子渦糸モデルで量子渦ならびに超流体の運動を調べるというものであった。しかし、近年、管内熱対向流(超流体と常流体が逆向きに流れる)において可視化実験が行われ、常流体が異常な変形をしていることが明らかとなった。これを動機として、2流体結合の数値計算を始めた。この大きな困難は、渦糸モデルはラグランジュアン的であるのに対し、NS方程式はオイラー的で、両者を融合させるのは容易でないという点である。しかし、今年度、NS方程式の数値計算の専門家の助けも借りながら、定式化と数値計算コードの開発を行い、初等的な結果を得られるようになった。それによれば、確かに量子渦の影響を受けて、ポアズイユ型層流の常流体流れが、実験で見られたような特異な変形を行う。次年度はこの研究を押し進め、様々なパラメータを変えながらこの2流体結合ダイナミクスの全貌の解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で示したような超流動ヘリウムの2流体完全結合ダイナミクスを目標としている。世界で誰も挑戦したことが無いテーマのため、困難を極めたが、28年度後半から数値計算コードが巧く走るようになり、結果が出始めた。当初から、ここまで進めば十分というところまで達した。これは現在、第一報の論文を作成中である。
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今後の研究の推進方策 |
まずは初等的結果が得られたので、今後、温度や流れ場等のパラメータを変えて、この常流体の変形の全貌を明らかにする、特に相図が描ければ良いと考えている。通常のレイノルズ数Reに加えて、量子渦と常流体の相互作用を表す相互摩擦力の強さを表す無次元パラメータReMを導入し、Re-ReMの相図を調べる。我々は計算を、断面が正方形の正方形管で行っているが、断面を長方形にしたら、物理が変わることが実験で報告されている。その計算も可能で、これを調べる。さらに、流れ場を切った後の減衰も実験家から興味を持たれており、詳細を調べて実験家との共著論文を作成する予定である。
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