研究領域 | 理論と実験の協奏による柔らかな分子系の機能の科学 |
研究課題/領域番号 |
16H00821
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
石橋 孝章 筑波大学, 数理物質系, 教授 (70232337)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 振動和周波分光 / ラマン分光 / 表面・界面 |
研究実績の概要 |
(ヘテロダイン検出全内部反射VSFG分光)ヘテロダイン検出全内部反射VSFG分光における位相の測定手法および解析手順を確立した.LB法でプリズム底面に作製したDPPC脂質膜を空気中で測定し,正しい位相のスペクトルが得られることを確認した.開発した装置は,CaF2と陰イオン性界面活性剤(SDS)水溶液の界面のヘテロダインVSFGスペクトル測定に応用した.水のOH伸縮振動バンドとSDSのCH3伸縮振動バンドの大きさと符号から,SDSの濃度に依存した水分子および末端メチル基の極性配向状態の変化に関する情報が得られた. (全内部反射自発ラマン分光)26-27年度の公募研究で構築した全内部反射自発ラマン分光装置を,固体―水溶液界面に形成した脂質二分子膜に応用するためには,試料セルの半球セルの直径を20 mm程度にする必要がある.このため,ラマン光集光方法を改良した.試料セルの半球プリズム-溶液界面の溶液側に放射されるラマン光を集光するように改造し,直径20 mmの半球プリズムと大きな集光立体角を持つ顕微鏡用対物レンズを組み合わせて使用できるようになった.SiO2と陽イオン性界面活性剤(DTAB)溶液の界面の試験測定によって,これまでと同等な感度が実現されていることが確認された. (全内部反射CARS分光)固体-液体界面近傍の測定のための全内部反射配置を採用したCARS 分光装置の試作機を製作した.波長可変ピコ秒狭帯域光とフェムト秒広帯域光のプローブレーザーを半円柱プリズムを使い臨界角より大きな入射角で界面に照射し,反射方向に発生する広帯域CARS信号光を分光器で分散しマルチチャンネル検出器で検出するマルチプレックス方式を採用した.現在のところSiO2と液体メタノールの界面のCH伸縮振動領域の全内部反射CARSの測定に成功している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に従い,全内部反射配置を利用した振動和周波発生,自発ラマン,CARS分光装置の試作機を開発することができた.試料部分に関しては二重膜作製方法の技術の開発に着手しているが,まだ十分に良質な膜を再現性よく作製できる状態には至っていない.またCARS分光装置に関しては,単分子膜レベルの面密度の試料の信号が未取得であり,次年度,装置の最適化が必要である.以上の状況を考慮して「おおむね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
本年度までに開発した分光システムを,固体水溶液界面における基板固定脂質二重膜のモデル系や海面下製剤膜の分光へ応用する. 脂質二重膜はLB法によってプリズム端面上に構築する.まず,二葉のそれぞれが通常の脂質分子と重水素化した脂質分子となるように構成した二重膜を作製し,フリップフロップ運動を,ヘテロダインVSFG分光によって測定し,運動の速さや検出限界等を既報の値と比較検討する.その後,脂質二重膜―タンパク質複合体の測定を進める.二重膜と水溶液に接触させ,水溶液に直鎖αヘリックス型の抗微生物性ペプチド(セクロピン,モリシン等)を注入し,ペプチドの水溶液中から脂質膜への吸着侵入挙動をラマン分光と振動SFG分光で観測する.タンパクの侵入に伴う脂質の吸着量の変化,脂質アルキル鎖部分の配向・秩序度の変化をCH伸縮振動領域のスペクトルから検討する.また,αヘリックスのアミドIバンドのVSFG分光のヘテロダイン測定から,ペプチドの吸着過程(ヘリックスがどんな角度でどちら側からペプチドが脂質層に侵入するか)を検討する.さらに,二次構造に敏感なキラル振動SFG(アミドIとNH伸縮バンド)の測定も行い,二次構造の情報を得る.特に,吸着開始後,時間経過に依存して二次構造(ヘリックス,シート,ランダムコイル)の分布量の変化に着目して実験する.同じ二重膜試料について,全内部反射自発ラマンスペクトルの測定も行うことで,SFG分光だけでは難しい配向分布の分布幅等を含む詳細な情報の取得をこころみる.また,昨年度開発した全内部反射CARS分光装置による固体水溶液界面における単分子膜程度の分子密度の界面活性剤膜のCARSスペクトルの測定にも挑戦する.
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