研究実績の概要 |
本研究では、有機小分子での分子の動きを制御することによって、光照射によって生じる「分子の励起状態」を制御し、光機能性分子(蛍光プローブや光増感剤)を開発することを目指している。 本年度は、「低酸素環境下で活性化する光増感剤の開発」に成功している。本研究成果は、学術論文(J. Am. Chem. Soc., 139, 13713-13719 (2017))にて発表を行った。以下にその詳細を示す。 生体内における異常な低酸素状態はがんや虚血性疾患などと密接に関与しており、HIF-1の活性化等を介し様々な生体反応を惹起する。低酸素環境を認識し発蛍光する蛍光プローブは、生体内の低酸素応答を理解する上で有用なツールとなり、これまでに開発に成功している。本研究では、低酸素環境で活性化し光増感能を示す機能性光増感剤の開発を行った。 これまでに開発に成功している低酸素環境を検出する蛍光プローブの分子デザインでは、アゾ基が低酸素環境選択的に還元的開裂反応を受けること、及びアゾ化合物が一般的に無蛍光物質であることに着目している(Angew. Chem. Int. Ed., 52, 13028-13032 (2013)&ACS Chem. Biol., 12, 558-563 (2017))。すなわち、蛍光団の共役系にアゾ基を導入することで蛍光を消失させ、低酸素環境依存的にアゾ基が還元的開裂を受けることで蛍光が回復する低酸素感受性蛍光プローブである。これら分子設計コンセプトを基に機能性光増感剤を分子設計した。すなわち、重原子効果により高い効率で一重項酸素を生成することが知られているSe-ローダミン色素の誘導体としてdiMe SeRを開発し、その色素共役系にアゾ基を導入したdiMe azoSeRを合成した。本プローブを生細胞へと応用したところ、低酸素下で光照射により細胞死を誘導することに成功した。
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