研究領域 | 理論と実験の協奏による柔らかな分子系の機能の科学 |
研究課題/領域番号 |
16H00826
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
水瀬 賢太 東京工業大学, 理学院, 助教 (70613157)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | フェムト秒化学 / レーザー化学 / 分子間相互作用 / 分子クラスター / 強光子場化学 / 化学反応動力学 / 光電子・光イオン画像観測 |
研究実績の概要 |
本研究は、分子システムが分子間振動モードの励起で構造を大きく変えるダイナミクスを、分子レベルかつ実時間で追跡すること、そしてその観測から多次元多極小ポテンシャルにおける分子の動的構造の分子論的描像を築くことを目的としている。研究1年目である今年度の研究では、分子クラスターの構造とダイナミクスを追跡するための新しい時間分解画像観測のアプローチを考案し、そのための装置設計と最適化を行った。具体的な対象として、これまでに構造研究が皆無だった窒素クラスターをとりあげ、フェムト秒インパルシブラマン散乱過程による低振動モードの選択的励起、および誘起した振動ダイナミクスの実時間画像観測をおこなった。通常の飛行時間測定では強い背景信号に埋もれてしまうクラスター由来の微弱な信号を、画像上の空間を選択することで効率的に観測することに成功した。観測した画像の時間変化から、約1030フェムト秒周期の振動構造が得られた。分子間相互作用ダイナミクスを研究する上で、分子間振動数という、最も直接的な情報を初めて抽出することに成功したといえる。現在、励起光やプローブ光の偏光や強度を変えた測定によって、どのような分子間振動であるか帰属することや、多段階に振動を励起することで相互作用組み換えダイナミクスの観測につなげることを目指している。また、振動モード選択的多段階励起のための、偏光状態と遅延時間が任意に制御できる多重パルス光学系を設計、構築した。さらに、光学系の性能評価として、分子回転運動の加減速実験を行った。偏光の精密な制御によって、運動の方向と速さまで含めた高度な分子制御が可能となりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度は方法論の開発に注力する計画であり、ほぼ計画どおりに光学系の構築および画像観測装置の分子クラスター実験への応用に成功しているため。
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今後の研究の推進方策 |
研究2年目は初年度に開発した光電子・光イオン画像観測装置を用いることで、ラマン強度の大きな負イオン種への適用や、クーロン爆発過程が複雑化し1年目のアプローチが困難となりうる巨大クラスターおよび巨大分子系(分子量200以上)に関しても議論を可能にする。さらに、新規観測装置の特徴である、励起状態の分子構造が可視化できる利点を活用し、超短パルス紫外光源との組み合わせによる電子励起状態ダイナミクスの観測へと研究を展開する。 また、ポテンシャルエネルギー曲面上の運動についての理論的研究を領域内共同研究として計画している。実験と理論の比較によって、特に未帰属だった分子間振動モードなどについて、飛躍的に解析が進むものと期待される。
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