研究領域 | 理論と実験の協奏による柔らかな分子系の機能の科学 |
研究課題/領域番号 |
16H00828
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
川村 出 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (20452047)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 固体NMR / 膜タンパク質 / ペプチド / Dアミノ酸 / レチナール |
研究実績の概要 |
膜タンパク質などの細胞膜中で機能する生体分子の構造解析に対して有効な固体NMR法を用いて研究を展開している。本年度は、光駆動型ナトリウムイオンポンプKR2のレチナール結合ポケットの構造解析を名工大の神取グループと共同で行った。酸性と中性条件の間で、化学シフト変化はほとんど見られなかったが、シッフ塩基の部分にのみ低磁場シフトしていることが判明した。これは対イオンとなるAsp116との相互作用変化を示唆しており、ナトリウムイオンポンプ型ロドプシンに特有の変化と考えている。レチナール近傍に存在するTyr218は他のロドプシンにおいても高く保存されている。このTyr218のNMR信号は水素結合形成に敏感であるため、その化学シフト値を解析したところ、プロトンポンプ型やセンサー型のロドプシンよりも弱い水素結合を形成していることが示唆された。このTyr218-Asp251の間の相互作用が弱いことによって、輸送時にAsp251がナトリウムイオンと相互作用しやすい可能性が示された。 Dアミノ酸を含む抗菌ペプチドが高い活性を示す理由を明らかにするために、抗菌ペプチドの膜結合構造の研究を行なっている。リーシュマニア原虫の細胞膜の構成成分を参考にし、抗菌ペプチド ボンビニンH4と細胞膜との相互作用について31P 固体NMRによる解析を行なった。そのメカニズムは濃度依存的に膜分断活性を示すカーペットモデルであることがわかった。また、ボンビニンH4はD体のアロイソロイシン残基を有しているが、愛媛大学 佐藤先生との共同研究でLイソロイシンとDアロイソロイシンの固体状態でのVCD測定にも成功し、キラリティについても理解を深めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
微生物型ロドプシンのレチナール結合ポケットの固体NMR構造解析法を構築し、レチナールの配座およびレチナール周辺残基の構造を明らかにした(A. Shigeta et al. (2017) Biochemistry)。Dアミノ酸含有ペプチドについても、細胞膜との相互作用やキラリティをはじめとして詳細な構造解析法を構築することに成功した(H. Sato et al. (2017) Chem. Lett., Editor's choiceに選出)。このような成果を発表し、研究協力者の学生が学会賞を受賞するなどインパクトを残している。生体分子の機能的な相互作用を解析するための手法を構築・適用しており、順調に研究を遂行している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究についてはつぎの3つを予定している。 1.ロドプシン蛋白質については固体NMRデータを蓄積し、レチナールと周囲のアミノ酸との相互作用、特にTyrの水素結合強度と化学シフトの関係を機能と関連づける研究を進める予定である。 2.抗菌ペプチドについては分子動力学シミュレーションを適用し、ペプチドの膜結合モデルをイメージする予定である。 3. 自己組織化ペプチドの局所的なコンフォメーションを固体NMR法を主に用いて明らかにする予定である。
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