研究領域 | 理論と実験の協奏による柔らかな分子系の機能の科学 |
研究課題/領域番号 |
16H00830
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
内橋 貴之 金沢大学, 数物科学系, 教授 (30326300)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 一分子計測(SMD) / 走査プローブ顕微鏡 / 蛋白質 |
研究実績の概要 |
A. イオンポンプロドプシンの多量体構造の決定 微生物型イオンポンプロドプシン(KR2・FR・GR・ASR・PoXeR)を高速AFMにより網羅的に観察し、多量体構造を決定した。高解像な高速AFM観察のために、脂質ナノディスクに使われる膜骨格タンパク質(MSP)と脂質の混合比を最適化して調整することで、脂質平面膜に分子が高密度に再構成し、高解像AFM観察に適した試料を調整する方法を開発した。これにより、プロトンポンプGR、ナトリウムイオンポンプKR2、クロライドイオンポンプFRは全て5量体を形成しており、一方、センサリーロドプシンASRや内向きプロトンポンプPoXeRはバクテリオロドプシンと同様の3量体を形成していることがわかった。これらのことから、微生物型プロドプシンの多量体構造は進化系統樹と相関があることが示唆された。 2. KR2の光誘起構造変化の観察に向けた検討 ナトリウムポンプであるKR2の光誘起による構造変化を観察するためには、5量体中のプロトマーを細胞質側から高解像で可視化する必要がある。KR2にはHis-tagが付与されていることから、5量体にHis-tag抗体が結合する様子を観察することで、高速AFMにより観察されるKR2-5量体の向きを決定した。また、His-tagが5量体の中心でより合わさって突起構造を形成し、高解像観察を阻害していることが判明した。His-tagを切断した試料を調整することで、KR2細胞質側から5量体中のプロトマーを分解して可視化ができるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
微生物型ロドプシンの多量体を高解像に高速AFM観察するための試料調整方法を確立でき、いくつかのイオンポンプロドプシンの多量体構造を決定することができた。さらに、イオンポンプロドプシンの進化と多量体構造に相関があることを見出すことができた。また、KR2の光誘起構造変化に向けた、試料検討も順調に進んでいるため。
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今後の研究の推進方策 |
KR2の光誘起構造変化の観察については、高速AFMの時間分解能で観察できる程度にフォトサイクルが遅い変異体を準備している。試料の調整が出来次第、構造変化の観察に取りかかる。また、KR2は多量体を形成しない変異体で、イオンポンプ活性が低下する現象が生化学的に見出されている。この変異体について多量体解析を行い、多量体構造と機能との相関を明らかにする。 KR2を発現するK. eikastusはKR1と呼ばれるプロテオロドプシンに属するロドプシンを発現することが知られている。細胞膜上でKR1とKR2が別々のクラスターで存在するのか、あるいは混在して存在するのかを明らかにするために、細菌表層に分布した状態の高速AFM観察を行う。ロドプシンは細胞内膜に存在するので、外膜をリゾチームで溶解、除去したスフェロプラスト状態を作り観察する。KR1とKR2の両者を区別して観察できれば、それらの局在と多量体構造、さらには光刺激による構造変化の観察も試みる。
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