研究領域 | 理論と実験の協奏による柔らかな分子系の機能の科学 |
研究課題/領域番号 |
16H00834
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
寺尾 潤 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (00322173)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | π共役ポリマー / 固体金属イオンセンサ / 分子ワイヤ / ロタキサン / 蛍光発光材料 |
研究実績の概要 |
本研究では,共役主鎖を一本ずつ環状分子で覆ったπ共役ポリマーに着目し,プラットフォームとなるポリマー1を設計した。1は,主鎖に連結した完全メチル化αシクロデキストリン(PM CD)を用いたロタキサン構造によって,主鎖が被覆され,分子間相互作用が高度に抑制されている。同時に,配位部位は2つのPM CDに挟まれたポケットの様な空間によって,金属が近接可能なスペースが提供されている。1の溶液に金属イオンを加えた際の蛍光色変化を調べた結果,典型金属を配位させた際に,発光波長のレッドシフトが生じた。その発光色は金属種の種類によって変化し,青緑色(Zn2+), 緑色(In3+), 黄色(Sn4+)等の様々な発光色へのチューニングが可能であった。次に,1の固体発光特性を調査した。その結果,いずれのポリマーについてもフィルム中で強い発光を示した。発光量子収率は高いもので46%に達し,これは固体π共役メタロポリマーとしては非常に高い値である。発光極大波長についても溶液中とほぼ同様であり,溶液中と同等の発光色が得られた。一方で,非被覆型ポリマーを用いたリファレンス分子については,発光量子収率の大幅な低下や,発光波長の大きなレッドシフトが観測された。この様に1が有する高度な被覆構造によって,溶液中でチューニングした発光特性を損なうことなく固体中へと転写することが可能となった。さらに1は,個体状態でも金属への配位能力を維持している。1のフィルムを,Sn4+を含む溶液に数秒間浸漬させると,浸漬部分の発光色が青から黄色へと変化し,Sn4+イオンの配位が確認された。また,そのフィルムをIn3+を含む溶液に浸漬させると,Sn4+が配位していた部分の発光色は黄色のまま変化せず,それ以外の部分が緑色の発光を示した。さらに,これらの配位した金属は,フィルムをアンモニア水に浸漬させることで容易に除去可能であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
π共役ポリマーは,その優れた発光特性および加工性から,光学デバイス材料として有望視され,用途に応じてポリマーの発光色を自在にチューニングする必要がある。その発光色変化には,モノマー構造に遡って主鎖骨格自体の変更・調整を行うのが一般的である。一方,ポリマー化した後に外部から試薬を作用させることで,その主鎖骨格を変更することなく蛍光色をコントロールすることも可能である。特に,金属イオンとポリマーとの非共有的に結合可能な外部刺激物質を用いた場合は,簡便に可逆的な蛍光色チューニングが可能となる。一方で,この手法を,固体状態のπ共役ポリマーへと応用した例はこれまで報告されていない。これは,ポリマー鎖間で働く不規則なπ-π相互作用によって,発光波長の長波長化や量子収率の劇的な低下が生じるためである。加えて,金属が配位したπ共役メタロポリマーでは,イオン性相互作用や金属-金属相互作用も働き,その制御はより困難となる。この解決策として本研究では,共役主鎖を一本ずつ環状分子で覆ったπ共役ポリマーを設計しその実現に成功した。本研究内容はAngewandte Chem誌にVIPとして表紙を飾った。
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今後の研究の推進方策 |
Flory-Huggins理論の支配方程式を今一度見直し,電荷輸送に最適な構造指針を示すとともに,シリコン半導体に匹敵する電荷移動度を示す高分子半導体材料の合成を行う。 即ち,申請者がこれまで分子内ホッピング伝導を最大限に引き上げる手法として導入した共役鎖を「包む」・「分断する」方法論をさらに発展させ,より斬新な構造設計で,室温におけるバンド伝導経路を構築し,電荷移動度 100 cm2V-1s-1を示す高分子半導体材料の開発を目指す。即ち,共役鎖を被覆部位の静電反発により「引っ張る」,金属有機構造体(MOF)の中に共役高分子を埋め込み「固める」,二種類の手法により電荷移動度の大幅な向上を目指す。また,逐次的な分子間・分子内重合反応によるラダー型ポリマーの新合成法を提案し,共役鎖を平面状に「広げる」,ポリマー鎖を上下に「束ねる」合成法の確立を目指すと共に,電荷移動度の測定結果を構造設計にフィードバックし,双方で得られる結果の理論的検証を行う。
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