研究領域 | 理論と実験の協奏による柔らかな分子系の機能の科学 |
研究課題/領域番号 |
16H00840
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
佐藤 久子 愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 教授 (20500359)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | キラリティ / 振動円二色性分光法 |
研究実績の概要 |
たんぱく質に代表される生体高分子ではさまざまなコンフォメーションが可能であり、その“柔らかさ”のもとで階層的高次構造(一次から四次)が導かれる。各階層は特有の不斉構造(キラリティ)を有し、それらが機能発現のための不可欠な要素となっている。我々は高感度化を目指した振動円二色性分光法と表面反射とのVCD-RASコンカレント測定装置の開発を行ってきた。その結果VCD-RAS手法が、溶液、膜あるいは固体試料に見られる分子集合体の示す超分子キラリティ解析に対して新しい手段となり得ることを示してきた。 本プロジェクトでは、次元拡張型VCD-RAS装置の開発を行い、それを用いたペプチドオリゴマー中のD-アミノ酸の検出を目指した研究を提案した。本年度はその第1歩として、微弱なシグナル追跡のための振動円二色性分光法装置の検出部および光学系のバージョンアップをおこなった。D-アミノ酸追跡用試料としては抗菌作用のあるペプチドをとりあげ、その中に存在することが知られている2つの不斉炭素をもつL-イソロイシンとD-アロイソロイシンの関係に着目した。その結果、固体状態での測定によって2つの不斉炭素に由来するVCD吸収の符号がそれぞれ独立には決まらず、両者のキラリテイに相互依存していることがわかった。ペプチド中のアミノ酸のR体、あるいはS体を同定する上で、着目する分子のVCD吸収の符号に対して隣接したアミノ酸のキラリティが影響を与える可能性があることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は振動円二色性分光法装置の検出部および光学系のバージョンアップを行った。その結果、微弱シグナルが測定可能となり、論文化した結果は、Chem.Lett.のEditor's Choiceに選出された。愛媛大学のホームページにも掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で用いるVCD法は、一般にシグナルが小さいことが問題であるために反応系の選択に工夫が必要である。特にアミノ酸の場合、水溶媒での測定が可能かどうかが重要である。次年度ではこの問題のために、D体のみとL体のみのアミノ酸からなるペプチドオリゴマーを用いて、次元拡張型VCD/LD装置での測定を行う。種々のアミノ酸からなるペプチドオリゴマー(ジペプチドなど)を系統的に調べ、各アミノ酸残基によるVCDスペクトルがD体とL体で反転していることを確かめる。このシグナルの解析には第1原理計算を併用し、ペプチドオリゴマーの構造を決定する。次に、L体中に一個のD体(およびD体中に一個のL体)を含むモデルペプチを取り上げる。L体からD体に置換された時に全体の高次構造(βシート構造など)がどのように影響を受けるかを調べる。具体的には、C=O伸縮やアミド基に帰属されるVCDピークの挙動をペプチドの重合度を変えながら追跡する。
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