準安定な過冷却状態を示すイオン液体(IL)を用い、最安定な結晶相における結晶構造をもとにして液体状態での分子配列を議論できるのではないかという着想のもと実験を遂行した。室温における最安定相は結晶相であり、かつ一度融解すると準安定な過冷却液体状態を常温で長時間保つイオン対を得た。単結晶X線構造解析において、イオン性部位と非イオン性部位による層状構造を有しており、イオン性の層間距離は23.1 Åであった。興味深いことに、この層間距離に対応する低角側の回折ピークは準安定な過冷却IL状態においても観測され、液体中において二次元性の秩序構造を保って分子が配列していることを明らかにした。さらに、この低角側に現れた回折ピークの半値幅から、液体中における三重項励起子拡散距離と比較した。興味深いことに、算出されたドメインスケール9.3 nmに対し拡散距離は21.1 nmであった。これはIL中でドメイン同士の境界を越えて三重項励起エネルギー拡散が起こっているという描像を示している。 近年、フォトン・アップコンバージョン (TTA-UC) の新たな展開として、外部刺激による発光スイッチングが注目されている。しかしながら、これまでの研究は発光のON/OFFスイッチングに限られており、UC発光色を可逆的に変化させた例は無かった。発光部位を有するシクロファンは室温において結晶層とネマチック相の2つの相を示し、それぞれ緑色と黄色といった異なる蛍光色を示した。それぞれの相に三重項ドナー分子としてS-T吸収を示すオスミウム錯体を均一にドープし、近赤外光を照射したところ、シクロファンの集合体中で三重項拡散が起こり、可視域にTTA-UC発光を示すことを見出した。また、シクロファンの結晶相とネマチック相の間の相転移を利用することで、UC発光色を可逆的に変化させることに初めて成功した。
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