公募研究
本研究では,光励起によって生成する不安定分子種や短寿命過渡分子種を対象にした高感度・超高速赤外円偏光二色性(VCD)分光システムの開発を行い,そのような分子種の絶対配置の解析および追跡を目的とする.また,開発したシステムの性能評価と方法論の検証を行い,領域内共同研究を推進する.平成28年度には,主に以下の3つの研究を行った.(1) フェムト秒時間分解赤外マルチチャンネル分光システムと近赤外光励起ナノ秒時間分解ラマン分光システムの製作と応用:新たにフェムト秒時間分解赤外マルチチャンネル分光システムを製作し,光励起によって結合開裂とその後の分子内回転を起こす高速フォトクロミック分子の光励起にともなう逐次的な分子構造変化を明らかにした.また,近赤外光をラマン励起光に用いたナノ秒時間分解ラマン分光システムを製作し,螺旋不斉を有するヘリセン誘導体のS1状態の過渡ラマンスペクトルを,TD-DFTと有限静電場法を用いて解析した(領域内共同研究).(2) 冷却・定常光照射下での赤外分光システムの製作と応用:極低温(7 K)定常光照射赤外分光システムを製作し,これを用いて原子価異性を示す[CrCo]複核錯体の配位子金属間電荷移動バンドを光励起することにより,電子移動を誘起して錯体の分極を光制御できることを明らかにした(領域内共同研究).(3) ジペプチド結合アゾベンゼンの光異性化にともなうジペプチド部の構造変化:アゾベンゼンのパラ位に2つのフェニルアラニンからなるジペプチドが結合した分子は,自己組織化によりナノファイバーを形成するが,紫外光照射によりアゾベンゼン部がトランスからシスに光異性化するとファイバーが解ける.紫外光照射下の赤外及びVCD測定から,アゾベンゼン発色団の光異性化がペプチド部の構造とキラリティに与える影響の解明に取り組んだ.
2: おおむね順調に進展している
光学活性分子の基底状態のVCD分光とラマン光学活性(ROA)分光は可能になり,「9. 研究実績の概要」の(3)に記述したように,VCD分光の不安定分子種への応用に取り組む段階まで到達した.また,(1)に記述したように,時間分解赤外・ラマン分光システムの製作も行った.しかし,短寿命過渡分子種へのVCD分光とROA分光の応用まではまだ到達していない.したがって,本研究は,おおむね順調に進展していると考えているが,今後,VCD分光計とROA分光計を時間分解測定ができるように改良し,過渡分子種への応用を行っていきたいと考えている.
平成29年度には,以下のような研究を実施する予定である.(1) 冷却・定常光照射下での高感度VCD分光システムを開発するとともに,(2) フェムト秒パルスレーザーを用いた超高速偏光変調赤外分光システムの開発も行う.さらに,(1)と(2)で開発したシステムを,(3) 高速フォトクロミック分子の発色体の絶対配置の決定とその光励起ダイナミクスに応用するとともに,(4) 研究領域内の共同研究を実施することで,「柔らかな分子系」の構造変化ダイナミクスに応用することを計画している.
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 7件、 招待講演 1件) 図書 (1件)
Journal of the American Chemical Society
巻: 139 ページ: 6382~6389
10.1021/jacs.7b01598
Peptide Science
巻: 2016 ページ: 113~114
J. Mater. Chem. C
巻: 5 ページ: 印刷中
DOI: 10.1039/x0xx00000x
J. Am. Chem. Soc.
巻: 138 ページ: 14170-14173
DOI: 10.1021/jacs.6b05089