研究領域 | 理論と実験の協奏による柔らかな分子系の機能の科学 |
研究課題/領域番号 |
16H00853
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
畑中 美穂 近畿大学, 理工学部, 助教 (80616011)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 自動反応経路探索 / 人工力誘起反応法 / 不斉触媒 |
研究実績の概要 |
近年、水の中での触媒反応が注目を集めている。水中での高立体選択的反応を実現させる不斉触媒は、これまで有機溶媒中で用いられてきた不斉触媒とは異なることが知られている。水の有無によって高い立体選択性を達成する触媒が異なるのはなぜだろうか? この問いに答えるため、これまで、Eu(III)やFe(II)を含む錯体を触媒として用いる向山アルドール反応について調べてきた。今年度はこれに引き続き、不斉クラウンエーテル誘導体を配位子に持つPr(III)錯体を触媒とする向山アルドール反応に着目した。 クラウンエーテルは一般に、構造が柔らかいため、本触媒も複数のコンフォマーが存在すると予想していた。しかし、今回着目した不斉クラウンエーテル誘導体は、環の一部にピリジン環を含むため、構造が剛直になっており、安定なコンフォマーは1つしか存在しなかった。 次に、この触媒構造に対して、ベンズアルデヒドが様々な方向から配位する構造について調べた。不斉触媒の多くは、一つ目の基質が配位した構造において、触媒の一部が二つ目の基質の接近方向を制御するように覆いかぶさっているが、本触媒系の場合、ベンズアルデヒドの周りに立体障害になるものは全くなく、二つ目の触媒がどの方向からも接近できる状態であった。そのため、立体選択性を決めるC-C生成段階に着目し、その遷移状態を人工力誘起反応法を用いて網羅的に探索することで立体選択性の議論を行うこととした。しかし、最も安定な遷移状態から得られる立体異性体が実験結果と矛盾するという結果となった。立体を決める因子が計算に含まれていない可能性を考慮し、予備的な検討を行ったところ、反応中心にある水分子が生成物の立体に影響している可能性があることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
得られた結果が実験と矛盾しているという問題はあったものの、その原因が水溶媒の取り扱いにあることが判明したので、おおむね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
水分子を考慮した上でC-C結合生成段階の遷移状態の網羅的探索を行い、立体選択性を決める因子について考察する。また、水分子の有無によって立体選択性が変わる反応系についても調べ、水分子の役割について包括的な説明を得ることを目指す。
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