光反応を含む多くの遷移金属錯体の反応には、多数の電子状態のポテンシャルエネルギー曲面が関与して進行する極めて自由度の高い複雑な経路が存在する。単核Fe錯体の光スピンクロスオーバー現象の理論的解析では、ビピリジン配位子が3つ配位した六配位Fe錯体は光照射により一重項(LS)状態から五重項(HS)状態へと量子収率~100%で遷移することが知られており、フェムト秒分解能X線レーザー分光法をはじめとする分光測定により解析が進められている。最近、過渡吸収測定から50fsより短い時間でHS状態が生成しているという報告があり、最短いステップ数の機構が示唆された。一方で理論的には最短ステップの遷移経路は一部に2電子遷移を含むため1ps以内の遷移は困難と考えられてきた。本研究では多参照摂動法による電荷移動遷移(MLCT)状態を含む多数の励起状態の安定構造やポテンシャル曲面、それらの間のスピン-軌道相互作用の理論計算から新たにその詳細を明らかにした。またアルキル化ピレン誘導体のソルバトクロミズムに関する理論的研究において、ピレン-ジメトキシベンゼン複合系分子の蛍光発光現象の理論解析を行った。当分子系は2つのメトキシ基の付加位置によってソルバトクロミズムの発現の有無がスイッチし、そのメカニズムの理論的解明を行った。その結果、波動関数理論を用いた計算では特定の位置に付加したときにソルバトクロミズムを示すということが再現され、その励起状態波動関数の解析からソルバトクロミズムの起源をピレン基との結合位置に対するメトキシ基の付加位置の対称性が起源となることを明らかにした。
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