研究領域 | 理論と実験の協奏による柔らかな分子系の機能の科学 |
研究課題/領域番号 |
16H00858
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設) |
研究代表者 |
飯野 亮太 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設), 岡崎統合バイオサイエンスセンター, 教授 (70403003)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 分子モーター / 1分子計測 / 光学顕微鏡 |
研究実績の概要 |
後方散乱型レーザー暗視野顕微鏡で金ナノロッドの配向と位置を高速かつ高精度に同時計測する手法を開発した。具体的には、10マイクロ秒の時間分解能、1°の角度決定精度、1ナノメートルの位置決定精度で同時計測を達成した。またこのシステムを用い、2つのモータードメインで微小管上を運動するリニア分子モーターkinesin-1の運動と構造変化の高速1分子計測を行った。 金ナノロッドの散乱像はその配向に依存し、焦点面にフォーカスした場合でも異方的にわずかに歪む。この性質を利用し、金ナノロッド1個の重心と配向を同時に高速計測する暗視野顕微鏡光学系を構築した。高い開口数(1.49、油浸)を持つ対物レンズおよび高い出力の赤色レーザー(640 nm, 100 mW)を導入し、観察像を計算像でフィットした。その結果、14マイクロ秒の時間分解能で、位置決定精度1.2 nm(長軸)、0.87 nm(短軸)および角度決定精度1.3°(方位角)、0.83°(極角)を達成した。次に、kinesin-1のモータードメインに金ナノロッドを結合させ、レールである微小管上を歩く際の構造変化と並進運動の高速同時1分子計測を行った。その結果、微小管に結合したキネシンの足が一度だけ構造変化をすることが明らかとなった。運動の化学エネルギー源であるATPの濃度が低下すると、微小管に結合してから構造変化が起こる前までの時間が長くなることから、この構造変化は微小管に結合したモータードメインへのATP結合により引き起こされることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
金ナノロッドのフォーカスイメージングを用いた重心と配向の複合1分子計測法を開発し、微小管に結合したキネシンのモータードメインが構造変化をすることを明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に開発した複合1分子計測法を駆使し、キネシンの化学力学共役の詳細を解明する。また、金ナノ粒子を用いた1分子計測で、結晶性多糖を分解しながら運動するリニア分子モーターSmChiAの運動素過程の詳細を解明する。予備実験では、直径40nmの金ナノ粒子を用いSmChiAのポーズと1nmステップが観察されている。1nmのステップサイズは分解生成物の2糖の長さに相当し妥当である。しかしながら、プローブの揺らぎが大きい、発見頻度が低い等の問題がある。金ナノ粒子のサイズを変更する、Cys残基を2ヵ所導入して多点で強固に結合させる、といった試みで問題を改善し、より高い精度での計測を行い比較する。 さらに、金、銀ナノ粒子の同時観察によるセルラーゼの運動とドメイン間距離の変化の同時計測を行う。セルラーゼが結晶性セルロースを連続的に加水分解するためには、セルロース単分子鎖を結晶から引きはがす「脱結晶化」のプロセスが重要だと考えられている。しかし脱結晶化における各ドメインの役割は明確でない。我々は、触媒ドメイン(CD)で発生した力がリンカーを介して結合ドメイン(CBM)に伝わり脱結晶化させる「尺取虫モデル」を提案する。このモデルでは運動中にCDとCBMの距離が周期的に変化すると予想される。金ナノ粒子と銀ナノ粒子は散乱スペクトルが大きく異なるため、波長の異なる2 種のレーザーを用いることでそれぞれの散乱像を同時に得ることができる。CfCel6B のCD、CBM に金、銀ナノ粒子をそれぞれ結合させて1分子計測を行い、運動中のドメイン間距離の周期的変化の検出を行う。
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