研究領域 | ニュートリノフロンティアの融合と進化 |
研究課題/領域番号 |
16H00872
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研究機関 | 東京女子大学 |
研究代表者 |
林 青司 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (80201870)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2018-03-31
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キーワード | ゲージ・ヒッグス統一理論 / 質量階層性 / ニュートリノ質量 |
研究実績の概要 |
研究代表者はかつて、ゲージ・ヒッグス統一理論(GHU) を「標準模型を超える理論」の魅力的な候補として提唱した。このシナリオではヒッグス粒子の起源は高次元的なゲージ・ボソンであり、そのために湯川結合は本来ゲージ結合定数である。これは、フェルミオン質量が世代に依らず普遍的に成ることを意味し、この特性はGHU シナリオの致命的な欠点である様に思える。 当該研究課題の主目的の一つは、実はGHU はクォーク等の階層的質量の構造を自然に説明する枠組みを提供する可能性がある事を指摘し、それを具現化するモデルの構築を試みる事である。実測されているクォーク質量の対数を世代数の関数としてプロットすると、ほぼ直線に乗る。これは、クォーク質量が本来は世代に依らず一律であり、それに世代数に比例した指数を持つ指数的抑制因子が作用して現実の質量階層性が生まれる事を示唆している。GHUは正にこうした性質を自然に説明し得るのである。実際、GHUではフェルミオン質量は上述の様に本来普遍的であり、また指数関数的抑制因子も、余剰次元としてオービフォールドを採用する際に導入される“Z_2-odd”質量項により実現される。残る課題は Z_2-odd 質量の量子化を実現する事である。代表者の以前の予備的研究で、6次元時空上のGHU理論において、余剰次元のトーラス中に磁気単極子を置くことでZ_2-odd 質量項と同等の振る舞いが得られることを確認している。 当該年度の研究では、こうして導入される磁気単極子により、Z_2-odd 質量項の量子化が実際に実現されるのかを具体的なモード関数の計算に依り確かめる事に精力を注いだ。その結果、未だ確定してはいないものの、有名なDirac による磁荷の量子化条件に起因して、望ましい質量の量子化が実現される可能性、また量子化条件から世代数が導かれるという興味深い可能性が見えて来ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該研究課題は年度途中で追加採択となったものである事もあり、研究の実質的な始動が遅れた。そうした事情もあり、当初の研究計画どうりには進捗していない面があり、まだその成果を論文としてまとめるまでには至っていない。 しかしながら、「研究実績の概要」で述べた様に、実測されているフェルミオン質量の階層的構造をGHU シナリオに基づいて自然に説明する、という意欲的な試みが実現する可能性に一定の目途がついたことは大きな収穫であった。 更に、当該課題のもう一つのキーワードでもあるニュートリノ質量に関しても、GHU シナリオでマヨラナ質量をどの様に記述出来るか、またシーソー機構をGHUシナリオの枠組みの中でどの様に実現するか、といった基本的問題点について、研究協力者の神戸大学・研究員の長谷川氏との共同研究により理解を深めることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
まずは「研究実績の概要」、「現在までの進捗状況」で述べた、フェルミオン質量の階層的構造をGHU シナリオに基づいて自然に説明する、というプロジェクトを完成させたい。具体的には、6次元時空上のGHUモデルにおいて余剰次元として導入するトーラス中に磁気単極子を置き、それにより生じるゲージ場のベクトル・ポテンシャルの下でフェルミオンのKaluza-Klein ゼロ・モードのモード関数を具体的に求め、期待している“量子化された”指数関数的抑制が実現されるのかを確かめたい。 更には、ニュートリノ質量において重要なマヨラナ質量項をGHU の枠内で生成するメカニズムの開発を行い、それに上記の階層的フェルミオン質量生成のメカニズムを応用する可能性についても挑戦したいと思っている。
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