研究領域 | ニュートリノフロンティアの融合と進化 |
研究課題/領域番号 |
16H00876
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
西口 創 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (10534810)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ニュートリノ / ミューオン / 放射線検出器 / ダイヤモンド検出器 / ビームモニタ |
研究実績の概要 |
本研究は、優れた放射線耐性で近年注目を集めているダイヤモンド結晶を「大強度ビームモニタ」として実用化し、開発した新ビームモニタでJ-PARC陽子ビームのハロープロファイルを測定、実際にビーム軌道調整に役立てる事を目指す。これにより、大強度加速器ビームの新しい運転時プロファイルモニタが実現され、加速器運転への逐次フィードバックに新しい手法を加える事が可能になる。上記研究項目を推進する事で、大強度加速器時代に相応しい新しいビーム品質向上手法を確立し、大強度加速器の性能向上によるニュートリノ・ミューオン両物理での実験感度向上を目指す。 計画は2カ年で完了する予定で、初年度(平成28年度)には、本格照射試験前の準備研究を進めた。特に、ダイヤモンド検出器からの信号読み出しのための電子回路の設計・製作、及び回路素子への放射線照射試験を完了した。一方で、大強度ビームモニタ試作機としてのダイヤモンド検出器製作にも取り掛かり、放射化や放熱の問題等を回避するための特殊な支持機構の製作や、ダイヤモンド検出器で生成される高周波電気信号の長距離転送機器の導入等を実施した。以上により、事業最終年度(平成29年度)に実施する事を計画している大強度ビームモニタ試作機への陽子ビーム直接照射試験への準備を着実に進展させた。以上の現状は国際会議(HINT2016)及び国内学会(日本物理学会)にて報告した。 平成29年度には、上記の陽子ビーム直接照射試験と並行して、より現実的な運用を見据えた次期プロトタイプ検出器の製作に取り掛かる。この次期プロトタイプではJ-PARC・30GeV陽子加速器を450kW以上で運転する大強度陽子ビームの連続照射にも耐え得る優れた耐放射線性能を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画では、ダイヤモンド検出器試作機を製作した上でJ-PARCの大強度陽子加速器にて実際に陽子ビーム照射試験を実施、大強度ビームモニタとしての実用化を目指す。2カ年計画のうち、初年度に試作機の製作と陽子加速器での照射試験の準備を済ませ、2年目前半に最初の照射試験を実施。その結果を踏まえ、実用化を見据えた第2試作機を製作、最終照射試験を実施する。 初年度である平成28年度には、当初計画通りに試作機の製作と調整を実施した。調整として実験室にて放射線源からのアルファ線を検出器試作機へ照射、電荷輸送効率等の基礎特性の研究を済ませた。この試作機をJ-PARC陽子加速器のうち、最終段にあたる30GeVシンクロトロンのアボート部へインストールした上で陽子ビーム照射試験を実施する計画であるが、アボート部は加速器ビームパイプ内部であり、検出器の真空対応・ビーム照射による放射化・温度上昇等インストール前に解決すべき課題が多くある。そのため、実際にインストールする前にアボート部外部(大気中)に試作機を据え付け、地上制御室からの遠隔制御を第一に確立させた。アボート部外部では、加速器内の周回ビームとビームパイプ内の残留ガスとの衝突に起因する放射線信号(ビームロス信号)が検知可能で、まずはアボート部脇に設置したダイヤモンド検出器試作機を用いてこれらビームロス信号を検知することで検出器システム全般の健全性を確認した。また検出器試作機の脱ガス測定を実施し真空対応を実証、放射線挙動モンテカルロ計算コード(PHITS)による陽子ビーム照射シミュレーションによる放射化の見積もり、有限要素法計算による発熱の見積もりを実施した。以上の成果により、検出器試作機の加速器ビームパイプ内部への導入準備が整ったと判断、J-PARC加速器施設の了解を得、平成29年3月に加速器ビームパイプ内部へのインストールを完了した。
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今後の研究の推進方策 |
既述の通り、ダイヤモンド検出器試作機の製作と調整、また試作機の加速器ビームパイプ内部へのインストールは初年度(平成28年度)に完了したため、平成29年度にはこれへの陽子ビーム照射試験を実施する。まず、30GeVシンクロトロンへ陽子ビームを1スピル毎任意に入射するモード(1ショット運転)を行い、ダイヤモンド検出器試作機へ1ショットごとに陽子ビームを照射、生成される電荷情報を取得し、大強度陽子ビームを照射した際の検出器信号の振る舞いを詳細に研究する。この際、加速器運転のためのRF電源に起因する高周波ノイズの影響や、大強度ビームの直接照射による放射線損傷、機器の放射化、発熱量等のデータを取得、得られた知見を元に次期試作機の設計を進める。 次期試作機では、1ショット運転を想定した試作1号機を改良し、加速器を連続運転した際にも稼働可能な試作機を目指す。特に、検出器構造体の放射化量を低減するために、窒化アルミやグラフェン、またはセラミック等の素材を用いる予定で、同時に電極・信号線・バイアス電圧印加機構等、広範な変更が必要不可欠である。これらの改変に加え、新しいダイヤモンド結晶を導入し、大強度ビームモニタとしての実用化を見据えた、より現実的な試作機を目指す。この次期試作機のインストールを平成29年秋頃を目処に完了させ、平成29年度末に陽子ビーム照射試験を実施、結果を取りまとめる予定である。
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