融点や剛性,熱伝導度といった特定の物性に優れた材料開発を行うにあたって第一原理計算は非常に強力な道具であるが,この計算にあたっては事前にその材料の結晶構造を指定する必要がある.一方で結晶構造が明らかになっていない材料は無数にあり,それら全てを実験により合成し,その構造をX線解析等により調べることは現実的でない.したがって新規材料の開発には計算機によって効率的に結晶構造を推定することが不可欠である. このような結晶構造の推定は,与えられた原子組成に対してポテンシャルを最小化する配置を求める問題として定式化され,構造最適化とよばれる.構造最適化のような非凸最適化問題は機械学習においてもパラメータチューニング等の問題で多く現れるが,これは目的関数を確率モデルに基づいて定式化し,バンディットアルゴリズムとよばれる探索戦略を適用するベイズ最適化とよばれる枠組みで高速に最適解が発見できることが知られている. 通常扱われるバンディット問題では単位時刻ごとに単一の実験候補を選択するのが一般的であるが,一方で現実的な場面では,実験環境が複数あり,複数候補の実験を同時に行うという場合も多い.このような場合に,環境の実験結果への影響を併せて推定しつつ最適候補を動的に探索するアルゴリズムを新たに構成し,環境の要素を無視する場合に比べて精度よく推定が可能であることを理論および実験の両面から示した. さらに,ベイズ最適化はrandom feature mapとよばれる手法により線形モデル上のバンディット問題へと帰着可能であるが,この設定では探索に適した特徴量を選択する議論が従来は十分になされていなかった.そこで,最適候補を識別するための特徴量を適切に絞り込み探索するアルゴリズムを構築し,これが従来法より大幅に探索回数が削減可能であることを示した.
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