研究領域 | ナノ構造情報のフロンティア開拓-材料科学の新展開 |
研究課題/領域番号 |
16H00888
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
島川 祐一 京都大学, 化学研究所, 教授 (20372550)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | イオン結晶 / 強相関電子系 / 構造・機能材料 |
研究実績の概要 |
本研究では、イオン結晶としての遷移金属酸化物を対象として、イオン結合に基づく構造安定性の観点からの新物質探索と合成を行なってきた。その結果、高圧合成とトポタックティック物質変換を駆使した合成により、Aサイトカチオンが層状に秩序配列しBサイトに異常原子価Feイオンを含んだ新物質LaCa2Fe(3.67+)3O9を合成することに成功した。この物質は、異常高原子価Fe3.67+イオンの不安定性を解消するために、230 Kで電荷不均化転移を示し、2:1のFe3+とFe5+になる。興味深いことに、このFe3+とFe5+の電荷秩序の配列パターンは、層状方向に沿った2次元的な配列から、170 Kで<111>方向に沿った3次元的な配列に変化する。230 Kでの層状構造配列は、Aサイトのカチオン配列の秩序によるイオン電荷の層状ポテンシャルの影響を受けたものであり、170 K以下での3次元的配列は、荷電イオンの配列による静電ポテンシャルによる格子エネルギーが最小となるように起こることが明らかとなった。この結果は、異常高原子価イオンが示す特異な電荷転移現象とその結果として生じる低い対称性の相が、イオン結晶として静電エネルギーにより第一義的に決まっていることを示すものである。 さらに珍しい異常高原子価Fe5+イオンを含むLa2LiFeO6も高圧合成法を使うことで成功した。これまで報告された多くの例では、Fe5+は電荷不均化転移の結果としてFe3+と対となって安定化されていたが、Fe5+のみが酸化物中で単独で安定化されることを確認した。またこの岩塩型のFe5+カチオンの秩序配列は幾何学的な磁気フラストレーションを起こすことも明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高圧法による新物質合成では、LaCa2Fe3O9などのAサイトのカチオンが層状秩序配列した化合物に加えて、合成温度条件を変えることでAサイトカチオンが無秩序となったものを合成することもできた。これは合成条件を最適化することで、カチオンの秩序・無秩序配列を制御できることを示している。カチオン秩序度は、高分解能の放射光X線や中性子回折実験による精密な結晶構造解析から、明らかにできるようになっている。特に、カチオン-酸素結合距離を精密に評価することで、経験的にイオン価数を見積もる手法(ボンド・バレンス・サム法)を適用して、イオン結晶としての物質評価と、カチオンの価数変化からの物性変化を議論できるようになった。 構造安定化予測プログラムでは、結晶構造の温度変化を評価することを取り入れ始めた。これにより、負の熱膨張をはじめとする格子の異常変形についての議論ができるようになると期待している。 領域の全体会議などへの参加を通して、関連分野の多くの研究者と議論できる機会も得ている。マテリアルズインフォマティックスの新しい手法開発の進展を知る良い機会となっている。
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今後の研究の推進方策 |
高圧合成や低温トポタクティック物質変換技術を駆使した物質合成では、当初の予定通り引き続きぺロブスカイト構造酸化物におけるカチオン秩序配列を対象に新物質探索を進める。今後はさらに特異トポタクティックな変換におけるダイナミクスに注目する予定である。遷移金属酸化物をイオン結晶として考えると、O(2-)イオンの挿入脱離には、カチオンの秩序配列が大きな影響を与えると考えられる。そこで、異なるカチオンの秩序配列をもつ物質での酸化・還元反応の速度を評価することで、酸素イオンの拡散ダイナミクスを明らかにすることを試みていく予定である。 構造安定化予測プログラムを使った材料研究では、構造の温度変化から負の熱膨張の定量的な予測の可能性を探る予定である。また、新たに負の熱膨張などの大きな格子変化を示す新物質の探索も行っていく。 領域全体会議などへは引き続き積極的に参加するとともに、実験から計算科学分野の研究者への情報提供を試みる。興味深い電荷特性を示す物質群の基本結晶構造データなどを提供することにより、実験と理論が共同して進展できる研究領域を探していく予定である。 また、引き続き、マテリアルズインフォマティックスの新しい手法開発の進展などをフォローしていく。
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