スペクトロX線タイコグラフィでは試料によるX線吸収量を高い精度で再構成する必要があり、吸収量の小さい硬X線領域の実験では、吸収像の再構成が難しい。そこで、クラマース・クローニッヒの関係式をタイコグラフィにおける位相回復計算の拘束条件として用いることで、複素透過関数の再構成の収束性を向上させることを提案した。計算機シミュレーションの結果、クラマース・クロニッヒの関係式を用いることで、位相回復計算の収束性が向上し、X線吸収スペクトルの精度が向上することを確認した。マンガン酸化物薄膜をテスト試料として用いた実証実験を大型放射光施設SPring-8のBL29XUL/EH3にて行った。MnのK吸収端を含む6.527keVから6.585keVまでの入射X線エネルギーで、コヒーレント回折強度パターンを取得した。そして、コヒーレント回折強度パターンに位相回復計算を実行し、40ナノメートルの分解能でのX線吸収スペクトルを再構成した。別に行った同一試料の透過配置でのX線吸収スペクトルデータと比較した結果、クラマース・クロニッヒの関係式を用いることでX線吸収スペクトルの精度が向上することが判明した。また、微小構造体を参照波とするインラインホログラフィを組合せたX線タイコグラフィを用いることで、X線タイコグラフィの感度が向上することを実験的に確認し、スペクトロX線タイコグラフィに対しても有用であることが分かった。
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