研究領域 | ナノ構造情報のフロンティア開拓-材料科学の新展開 |
研究課題/領域番号 |
16H00893
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
池野 豪一 大阪府立大学, 21世紀科学研究機構, 講師 (30584833)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 機械学習 / 第一原理計算 / 無機蛍光体材料 / 多重項 |
研究実績の概要 |
無機蛍光体材料の新規ホスト結晶探索において、発光中心となるイオンが結晶中に形成するエネルギー準位や吸収・発光特性を定量的に予測することは極めて重要である。本研究では、機械学習を用いた光学スペクトルの高精度予測に向けた記述子・回帰手法の開発、ならびにマルチタスク学習を利用した新しい無機蛍光体光学特性の予測モデル構築の2つのテーマに取り組んでいる。 これら予測モデルを構築するには十分な数のスペクトルデータベースが必要となる。研究開始当初は過去に報告されている実験スペクトルデータを収集していたが、実験における試料の質や測定精度にばらつきが大きいこと、調べられている系に偏りがあるなど、十分な量と質を供えたデータベースを構築することは困難であった。そこで、第一原理計算を用いて、様々な構造のホスト結晶に対してスペクトルを計算し、データベースに加えることとした。計算を進める中で、多電子系電子状態計算を多数の系について行う上で、電子間相互作用を表す二電子積分の計算がボトルネックとなることが分かった。そこで、部分電子密度の多重極展開とスパースモデリングのアルゴリズムを応用した二電子積分の高速計算手法の開発を行った。具体的には、原子軌道の積を、原子核位置を中心とする多重極展開で表現し、二電子積分はフーリエ空間で積分を実行する。これにより、角度成分については解析的に積分を行うことができる。一方、動径成分については球ベッセル関数を含む振動積分を計算する必要がある。本研究では、スパースモデリングの手法を用いて被積分関数および球ベッセル関数を指数関数の線形結合で表現する手法を開発した。これにより、二電子積分の計算が従来の数値積分法に比べて5倍程度高速化することができた。 これらの成果については学会および、本新学術領域のシンポジウムにおいて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、光学スペクトルを予測するために必要な基本的な技術要素の開発は終了している。予測モデルに対しては、非負値分解を利用した次元下げを行うことで、スペクトルを効率的に計算する手法を既に開発している。残る課題はスペクトルデータベースを充実させること、適切な記述子の開発の2点である。前者に対しては、上述の二電子積分の高速計算アルゴリズムを用いることで、多数の系に第一原理計算を現実的な時間で実行することが可能となった。また、後者については、様々な記述子候補のデータを収集した他、結晶構造から容易に計算できるものについては、その場で計算ができる様なツールの開発を行った。今後、これらを組み合わせることで、信頼性の高い予測モデルが作成できるものと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
光学スペクトルの高精度予測に向けた記述子・回帰手法の開発について、新しく開発した二電子積分の高速計算アルゴリズムを利用した第一原理多電子計算により理論スペクトルをデータベースに加えてデータの質・量を増大させ予測精度の向上を図る。また、結晶中のポテンシャルに関する量を記述子として用いることで、新しい多重項準位予測モデルを構築する。より具体的には、希土類イオンの置換サイト位置における結晶ポテンシャルの多重極展開を説明変数として用いる。任意の配位数、対称性の結晶学的サイトにおいて変数の数が不変であることから、配位子場理論での取り扱いが困難な低対称相における多重項準位の予測にも適用できることがこの手法の利点である。結晶ポテンシャルとしては、結晶サイトに点電荷を配置した単純な静電ポテンシャルおよび、バンド計算により得られるより精密な結晶ポテンシャルを利用した2つをそれぞれ用いてスペクトル予測性能を検討する。この研究を通して、ナノ構造情報とスペクトル形状の直接的な関係を導き出す。 また、光学特性のマルチタスク学習については、データベースの拡張とニューラルネットワークの改良を進め、蛍光体特性のマルチタスク学習について更なる精度向上を図る。また、最適なマルチタスク学習法の探索も同時に進めるものとする。本テーマにおいても、学習データ数を増やすために、第一原理計算による計算結果を利用する。
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