研究領域 | 原子層科学 |
研究課題/領域番号 |
16H00894
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小川 修一 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (00579203)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | グラフェン / h-BN / 光電子顕微鏡 / 光電子分光 / 電界放出 / 微小電子限 |
研究実績の概要 |
原子層物質であるh-BNから顕著な電界放出が観察され、二次元物質を用いた電子放出デバイスの作製が期待されている。特にグラフェンとh-BNの層状構造にすることにより電子放出量が著しく増加することが報告されたが、その原因については未だ解明されていない。本研究では原子層物質からの電界放出メカニズムの解明を目的として、本年は光電子顕微鏡による電子放出箇所のマッピング、および紫外線光電子分光による価電子帯スペクトル評価を行った。 (1)物理的剥離法および熱CVD法により作製したh-BNの上にグラフェンを転写し、その試料の光電子顕微鏡による電子放出箇所マッピング観察を行った。物理剥離法h-BNは厚さが数μmあり、測定条件によってはチャージアップによる光電子スペクトルのシフトが観察された。その一方で熱CVD法により作製したh-BNは厚さが単原子層であり、チャージアップなく光電子顕微鏡像および光電子スペクトルが測定できた。光電子スペクトルの解析により、h-BNからグラフェンにチャージが移動し、フェルミ準位近傍の電子密度が増加することが顕著な電子放出の原因と推察された。 (2)熱CVD法h-BNの上にグラフェンを転写し、さらにその上に物理的剥離法でh-BNを転写したh-BN/グラフェン/h-BNサンドイッチ構造を作製した。剥離途中にグラフェンの一部が破れてしまう等品質には改良の余地があるが、このようなサンドイッチ構造を用いることでさらなる高効率の電子放出が可能になると期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画通り、光電子顕微鏡および紫外線光電子分光を用いてグラフェン/h-BN膜からの電子放出メカニズムを解明できた。また、品質は不十分なものの、h-BNを複数重ねた試料の作製にも成功した。以上の点から当初の計画通りおおむね順調に研究が進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の目標を以下の通りに設定する。 (1)h-BN/グラフェン/h-BNサンドイッチ構造の品質向上:平成28年度に作製したものはプロセスの開発という点では目標を達成できたものの、中間層のグラフェンに破損があるなど、その品質には改良の余地が多大に残っている。高品質化に向けて、具体的には物理的剥離法で作製したh-BNを用いずにCVDで作製したh-BNをCu基板から剥離させたものを用いてみる。 (2) グラフェン中間層の電気伝導度向上:電子放出効率増加のためにはグラフェンの電気伝導度向上も重要な課題である。グラフェンへの分子吸着によってグラフェンのキャリア密度を制御することができるため、水や炭酸ガス等の吸着によるグラフェン電気伝導度変化を明らかにし、その知見を活かして高効率原子層電子放出源の開発を進める。このような吸着物がグラフェン/h-BN複合体のバンド構造にどのような影響を与えるか、高輝度放射光および紫外光を用いた光電子制御により明らかにする。 (3) 電子放出量のグラフェン伝導度依存:平成28年度の研究により、グラフェンからの電子放出はh-BNからのチャージ移動であることが示唆された。したがって、グラフェンの伝導性の違い(p型かn型か)は電子放出特性に大きな影響を与えると予想される。そのため、グラフェン上への分子吸着を通じてグラフェンへのドーピングを行い、それが電子放出量にどのような影響を与えるのかを確かめる。
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