研究領域 | 原子層科学 |
研究課題/領域番号 |
16H00897
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
神田 晶申 筑波大学, 数理物質系, 教授 (30281637)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アンドレーエフ反射 / グラフェン / 層状超伝導体 / 鏡面アンドレーエフ反射 / 仕事関数 / 二セレン化ニオブ |
研究実績の概要 |
(1) グラフェン/超伝導体接合で理論予測されている鏡面アンドレーエフ反射の観測が困難である原因として、従来、荷電不純物によるディラック点の空間揺らぎが指摘されてきたが、本研究ではそれに加えて、仕事関数差に起因する電荷ドープの重要性に着目している。本年度は、荷電不純物の影響を抑制するために、2層グラフェン/層状超伝導体NbSe2の接合を窒化ボロン(hBN)膜で挟み込んだ構造を作製し、常伝導状態、超伝導状態における電気伝導特性を詳細に検討した。その結果、接合からの距離に依存してディラック点がシフトすることを観測し、先行研究(Efetov et al. Nat. Phys. (2016))で行われている、仕事関数差を無視した解析が不適切であることを明らかにした。さらに、高根美武氏(広島大)との共同研究において、仕事関数差を考慮した場合の電流電圧特性を理論的に考察し、特定の状況においてアンドレーエフ反射の共鳴状態が出現することを見出した。 (2) 層状超伝導体を用いた様々な試料を作製する上で重要となる、試料作製プロセスが超伝導特性に与える影響を調べた。膜厚10 nm程度の層状超伝導体NbSe2について、大気暴露したまま作製した試料と、hBN膜で大気から遮断した状態で作製した試料を比較した結果、超伝導転移温度、臨界磁場共にほとんど差が出ず、バルクとほぼ同じ値となることがわかった。また、超伝導体をプラズマエッチングで加工すると、超伝導転移温度の減少、転移幅の増大、臨界磁場の減少が観測された。 (3)層状高温超伝導体Bi2212をスコッチテープ法によって薄膜化した試料の超伝導転移の観測を試みた。バルクでは100 K程度で超伝導転移が観測されたが、グローブボックス中で薄膜化した試料では、hBNで保護した場合でも超伝導転移は起こらなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) グラフェン/超伝導体接合については、我々の着目している仕事関数差による電荷ドープが重要であることを実験で示すことに成功した。当初計画では、超伝導体とグラフェンの界面に多層グラフェンを挿入することで電荷ドープを抑制することを計画していたが、挿入によるアンドレーエフ反射確率の減少が懸念された。実験では、作製プロセスが複雑化してゲートリークが頻発したこともあり、良好な試料の作製には成功していない。それに代えて、理論家の協力のもと、電荷ドープがある状況でのアンドレーエフ反射の理論を構築することができた。この理論結果を用いることで、現在の試料から構造を変更することなく、鏡面アンドレーエフ反射の精密な探索を行うことが可能となった。 (2) 層状超伝導体に関する先行研究では、原子層膜厚まで薄くすると超伝導転移温度が減少することが報告されているが、その減少幅にはグループによって差があった。その原因が、エッチングプロセスであると判明した点、エッチングによる劣化の度合いが評価できた点は、今後の超伝導体試料の作製にとって重要な知見である。
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今後の研究の推進方策 |
(1) グラフェン/超伝導体接合については、2016年度の高根美武氏(広島大)との共同研究において得られた、超伝導体と2層グラフェン(BLG)の仕事関数差に起因する共鳴現象(微分コンダクタンスの振動)を実験的に検証する。これは、鏡面アンドレーエフ反射存在の明確な証拠となる。まず、ゲート電圧などの外部パラメタに対して振動がどのように依存するのかを数値的に明らかにする。その後、実際にクリーンなNbSe2/BLG接合を作製し、コンダクタンス振動の観測を目指した測定を行う。 (2) ミクロン程度のサイズのNbSe2薄膜に微小トンネル接合を介して複数個の常伝導電極が接続した試料を作製し、磁場を印加して、渦糸侵入/排出の検出を行う(multiple-small-tunnel-junciton法)。以前行ったMSTJ測定(超伝導体としてAl蒸着膜を使用)では、渦糸の配置の変化を高精度に検出することに成功した。NbSe2は多バンド超伝導体であるといわれているので、渦糸の侵入、排出の際に特異な振舞いが出ることが期待される。また、NbSe2を正方形などの対称性の良い形状に加工し、渦糸配置を外部電流によって制御する実験を行う。この測定は、以前にAlに対して行い、渦糸の量子力学的挙動を示唆する結果を得ている。層状超伝導体の場合は、凹凸は原理的には存在しないので、詳細な解析が可能になると期待される。 (3) 層状高温超伝導体について、超伝導転移の観測を目指した実験を行う。酸素などの雰囲気中でアニールしたり、リソグラフィーを全く行わないで試料を作製するなどし、薄膜化した高温超伝導体試料で超伝導転移を起こすための条件を求めたい。この条件が求まった後には、グラフェンとの接合におけるアンドレーエフ反射、渦糸侵入/排出などについて実験を行う。
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