公募研究
グラフェンで未だに実現されていない量子構造の一つに量子ポイントコンタクト(QPC)がある。 その原因の一つは「意外に高移動度化が難しい」ことであり,もう一つは「電場による閉じ込めが 効かない」というグラフェンに特有の問題が挙げられる。本研究では窒化ホウ素(BN)と2層グ ラフェン(BLGr)によりこれら2つの問題を打開し,グラフェンにおける新しい量子伝導現象観 測の道を切り拓くことを目的とする。本年度は,グラフェン電界効果トランジスター(FET)の高移動度化を目指し、韓国・ 成均館大学のグループと協力してBN/Gr/BN 積層構造の作製を進めた。その結果、低温での移動度がおよそ100000 cm2/Vsにまで達することができ,準バリスティック領域における伝導現象を議論することができるようになった。この領域でも低磁場では量子伝導度ゆらぎが観測され,そのゆらぎの特徴について解析を進めた。グラフェンにおける伝導度ゆらぎの特徴として、ゲート電圧に対するゆらぎ(ゲートゆらぎ)と、印加磁場に対するゆらぎ(磁気ゆらぎ)の振幅が異なるといったエルゴード性の破れが指摘されてきたが、本研究で得られた準バリスティック系での伝導度ゆらぎにおいても同様の違いが観測され、そのような特徴がグラフェンに特有の現象であることが実証された。また、0.5T以上の磁場範囲においては明瞭なシュブニコフ-ド・ハース振動が観測され、その解析からBNを用いた試料における有効質量や緩和時間の議論を行った。一方で、2層グラフェン(BLGr)に対する垂直電場印加による閉じ込め構造の形成については、十分な電場印加を実現することができるようになったが、バンドギャップの形成を示唆するような実験結果を得るには至らなかった。今後試料作製プロセスを見直し、バンドギャップ形成による量子閉じ込め効果の発現を目指して研究を進めていく。
3: やや遅れている
本研究の目的は、BNをグラフェンの上下層に用いることで高移動度化を実現することと、BLGrに対して垂直電場を印加することで空乏層を形成し、それらによって形成される量子閉じ込め構造における特徴的な伝導現象を観測することにある。そのため、前提となるグラフェンの高移動度化については、作製プロセスを概ね確立し、ディラックポイントが0V付近に位置した、100000 cm2/Vs程度の準バリスティック試料が作製できるようになった。一方で、BLGrに対する垂直電場印加によるバンドギャップ形成を目指し、試料を作製し、低温までの特性を取ったところ、5 V/nm程度の強電界を印加しているにもかかわらず、ディラックポイントの抵抗値の上昇は10 kΩ程度にとどまる結果となった。このように、バンドギャップ形成ができない原因については調査中であり、一刻も早い解決を行い、電界閉じ込め構造の作製に移りたいと考えている。
BLGrに対する電場による閉じ込め構造形成技術の確立と量子多体効果の観測をめざし、BN をBLGrの上下に用いた、垂直電場印加が可能なデュアルゲート構造を形成し、バンドギャップの形成を低温で確認する。その後、プロセスを発展させ,BLGrをチャネルとしたスプリットゲート型QPC の作製に取りかかる。スプリット型トップゲートを形成し,バックゲートとトップゲート間の電場を利用して,2層グラフェンに垂直電場を印加することで,ゲート電極直下のグラフェンを完全に空乏化させることができると考えられる。これによりナノリボン化すること無く電気的に1次元狭窄領域を形成できるようになり,明瞭な伝導度の量子化が観測されると期待している。その後,0.7 構造やスピン依存伝導の観測やSGM を用いたグラフェン上の伝導経路等のイメージングを進めていく。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 6件) 図書 (1件) 備考 (1件)
Journal of Physics: Condenced Matter
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