本年度は縮環π拡張(APEX)重合をさらに発展させることに成功し、リビング性を付与したリビングAPEX重合を新たに開発することができた。本反応は、開始剤にフェナントレンを用い、モノマーにベンゾナフトシロールを用い、パラジウム塩、銀塩、オルトクロラニル存在化で効率的に進行することがわかった。反応開始段階では、APEX反応に活性なK領域をもつフェナントレンのAPEX反応によってより大きな多環芳香族炭化水素の中間体が生成する。この中間体は成長末端に新たにK領域が出現するため、逐次的なAPEX反応、すなわちAPEX重合が進行するということが判明した。さらに本反応はリビング性を兼ね備えており、分散度を低く抑えることができる。フェナントレンとモノマーの配合比率を変えるだけで、分子量3000から150000万程度の低分散fjord型GNRを自在に合成することが可能となった。また、合成したfjord型GNRは脱水素環化反応によってN = 8のarmchair型GNRへと定量的に変換することが可能であり、ラマン分光スペクトル測定などによってのぞみのGNRが合成できていることが判明した。本リビングAPEX重合法は、これまで化学的・物理的な合成法では達成不可能であった幅・長さ・構造を精密に制御したGNRの世界で初めての合成手法であり、多環芳香族炭化水素など不活性芳香族化合物を用いたはじめてのリビング直接アリール化重合である。今後本重合法を用いた様々なGNRの精密合成に大きな期待がもたれる。
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