研究領域 | 原子層科学 |
研究課題/領域番号 |
16H00910
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松田 一成 京都大学, エネルギー理工学研究所, 教授 (40311435)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 原子層物質 / 人工ヘテロ構造 / 光物性 |
研究実績の概要 |
1. 高品質原子層ヘテロ構造の作製技術の確立と光学評価) 原子層物質のドライトランスファー技術を活用し、半導体原子層物質を人工的に積み重ね高品質なヘテロ構造を作製する技術を確立した。この方法を用いて、単層(1L)MoS2/1L-MoSe2からなる原子層人工ヘテロ構造を作製した。MoS2とMoSe2の組み合わせの接合では、いわゆるType IIのバンドアラインメントとなっており、電子とホールが異なる層に空間分離し束縛した層間励起子を形成し、発光が生じていることがわかった。これは、ナノ秒におよぶ非常に長い発光寿命、発光励起スペクトルにおいてMoS2/MoSe2の両方の層の共鳴ピークが観測されていること、などからも裏付けされている。さらに、発光の温度依存性と層間励起子の熱乖離を含む詳細な解析モデルから、層間励起子の束縛エネルギーが電子とホールで空間分離しているにもかかわらず、約90 meVと大きな値を有していることがわかった。これは、原子層物質のような極限的な二次元ヘテロ構造における、非常に強いクーロン相互作用に起因していると考えられる。 2. 原子層ヘテロ構造のデバイス作製(FET構造デバイスの作製)) 原子層人工ヘテロ構造における新たな光物性を開拓するために、キャリア密度の精密変調技術が必要であり、ゲート構造を施した1L-MoS2/1L-MoSe2ヘテロ構造を作製した。この系において、低温でゲート変調しながら発光測定を行った。その結果、ゲート変調つまりキャリア数に応じて変化する発光ピークが観測され、この人工ヘテロ構造において層間荷電励起子(トリオン)の存在が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の研究計画項目である、高品質原子層ヘテロ構造の作製技術の確立と光学評価において、MoS2/MoSe2からなる原子層人工ヘテロ構造において、空間分離した励起子(層間励起子)に起因する特異な光学的性質を明らかにする事ができた。更に、ゲート構造を施した人工ヘテロ構造を作製する事に成功し、ゲート印可によって層間荷電励起子の存在を明らかにするなど、当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度も引き続き、高品質原子層ヘテロ構造の作製技術の確立と光学評価、原子層ヘテロ構造のデバイス作製、などの更なる高度化を進める。特に、昨年度までに実現した半導体/半導体(MoS2/MoSe2)のヘテロ構造だけでなく、半導体/強磁性体などの新規ヘテロ構造の研究へと発展させる。さらに、原子層人工ヘテロ構造の特色を生かした光物性の研究を推し進める予定である。
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