研究領域 | 原子層科学 |
研究課題/領域番号 |
16H00913
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田中 慎一郎 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (00227141)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 原子層科学 / 角度分解光電子分光 / 高分解能電子エネルギー損失分光 / 電子格子相互作用 / グラフェン / ディラックコーン / 偏光 |
研究実績の概要 |
本年は、SiC上に形成したグラフェンおよび多層グラファイトについて、1)電子格子相互作用の素過程、2)可変偏光によるディラックコーンの光電子励起過程、について研究を進めた。 1a)名古屋大学楠研で作成したSiC上の2層グラフェンについて、高分解能角度分解光電子分光によって調べ、単層グラフェンと同様に、10.8eVの励起光によって共鳴的にグラフェンの面内振動(TOモード)によるフォノン散乱が起こり、ブリルアンゾーンのK点付近に存在するディラックコーン電子が光励起されると共にフォノンによって散乱され、Γ点付近における光電子として観測されることが明確に示された。これは電子格子相互作用の素過程の観察に他ならない。なお、単層と多層グラファイトの比較によって、電子フォノン散乱が非占有電子状態に大きく依存することが示された。 1b)光ではなく、単色化された電子源を励起源とする高分解能電子エネルギー損失分光(HREELS)によって、グラファイトの非占有状態間の電子フォノン相互作用について調べた。この手法は、a)で示した光電子分光による観察と原理はよく似ているが実験条件の違いによって異なったマトリックスエレメントを調べることができる相補的なものだと言える。これによれば、励起エネルギーに応じて異なる面間振動モードによるフォノン散乱過程が観測された。なお、この結果はPhys Rev. Bに論文として投稿して受理された。 2)SiC上の単層グラフェンを特定の励起エネルギー、特定の偏光条件で励起した角度分解光電子分光によれば、ディラックコーンからの光電子強度が束縛エネルギーに応じて回転し、螺旋構造を作ることが分かった。これは、1:光励起の終状態が単なる自由電子状態ではなくグラフェンのバンドであること、2:直線偏光の入射によっても、反射時の位相ずれによる円偏光による光励起が起こること、を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
角度分解光電子分光による1)電子格子相互作用の検出、2)可変偏光によるグラフェンディラックコーンの光励起過程、においてほぼ順調に研究が進んだ。1)においてはこれまでの単層グラフェンによる研究だけではなく、2層グラフェンにおいて新しい知見が得られた。すでに得られているグラファイトとの結果の比較によって、基礎的データの蓄積が大きく進んだ。2)においては当初予想していた終状態効果だけではなく、円偏光の影響という新しい知見が得られた。 さらに、当初計画していた角度分解光電子分光だけではなく、相補的な手段である角度分解高分解能電子エネルギー損失分光法によって相補的な研究ができることを示すことができた。これは、高分解能電子エネルギー損失分光という比較的古い実験手法によって、全く新しい物理量が検出できることを示したものであり、世界的にもユニークな成果と言える。
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今後の研究の推進方策 |
角度分解高分解能電子エネルギー損失分光による電子格子相互作用の素過程の検出という実験手法は、申請者が世界で初めて発見したものであるので今後も研究を進める。特に、近年開発されている多チャンネル型検出装置を用いることによって、実験時間の革命的な短縮だけではなく、本質的に有用なデータを得られる可能性ある。ただし、一般的に多く研究されているSiC上に作成したグラフェンでは、SiC基盤のフォノンによるロスピークが強すぎて実験できないと考えられるので、九州大学吾郷研が作成する銅単結晶上のグラフェンを用いて研究を進める。 角度分解光電子分光による研究においても、銅単結晶上のグラフェンを用いた研究を進める。 電子格子相互作用について:電気抵抗測定などでは、基盤との相互作用や面間フォノンによる電子散乱が重要であるという報告があるが、我々の研究では面内フォノンによる散乱しか見つかっていない。基盤依存性を調べることで、グラフェンのフォノン散乱に関する重要な知見が得られると期待できる。 可変偏光について:単層グラフェンと光との相互作用において、これまでは基盤の影響をほとんど考えてこなかったが、これまでの研究で判明した、反射おける位相ずれなどを考慮すると、基盤の影響も甚大であると考えられる。金属基盤とSiC基盤の結果を比較する。
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