研究領域 | 原子層科学 |
研究課題/領域番号 |
16H00914
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
草部 浩一 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (10262164)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | グラフェン / ナノグラフェン / 水素吸蔵 / 触媒 / 水素化社会 / エッジ状態 / トポロジカル量子効果 / 表面 |
研究実績の概要 |
3水素化原子欠損がグラフェンへの全く新しい水素吸着・脱離反応促進触媒効果を発揮することを発見した。各種ナノ炭素構造への自己触媒能賦活化法の社会提供を、特許出願(特願2016-169558)を通して完成した。ここでの自己触媒能とは、3水素化原子欠損への水素吸着による5水素化原子欠損形成とグラフェン表面上への原子状水素拡散を通した3水素化原子欠損(触媒構造)の回復を伴う連続水素吸着反応、及びその逆反応としての、水素脱離反応を、吸着材料であるグラフェン自体が触媒することに相当する。適切なプラントでのグラフォン型水素吸蔵状態を作成する時には原子状水素を利用してよいので、脱離促進が可能な安定水素化グラフェンを活性中心である原子欠損の形成を伴って与えることで動作する。吸脱着時の活性障壁が、凡そ1.3eVと動作上最適であること、構造の合成が比較的容易であること、などの利点が提供されるばかりか、反応促進方法としての外部電場刺激、振動励起導入、などの機能があるデバイスの形成が容易である。これにより、特に現在有望視されている有機ケミカルハイドライドがもつ水素脱離時の吸熱性による問題点を解決して、比較的安価な構成で水素ステーション等を小型化・経済化しながら構築する実用的方法の提供が視野に入った。この研究は福岡工業大学、東京工業大学等との共同研究として行われ、英国での水素エネルギー関連国際会議(AEM2016)や米国物理学会(APS March meeting)で関連報告を実施した。ナノグラフェンのさらなる機能化法として、安定アームチェア型a11端を水素化されたa21端に化学的に変更することが、ゼロエネルギー・エッジ状態を与えることを、トポロジカル数評価法と密度汎関数法による原子構造・電子状態決定法を併用して示した。これらの成果に関連して、報文6報を報告し、関連国際会議発表2件等を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画に対応してグラフェンの吸脱着反応を増強することを目指し、我々は効率的に脱離活性を上昇する触媒構造を提供することに成功した。この方法は、有機ケミカルハイドライドと異なる固体安定物質系の活用である。特許出願を行って内容を知的財産権として固定した。振動励起等を交流電場の導入等で与え、脱離反応特性の向上をも可能とするデバイス構造を提示した。エントロピー効果により、原子状水素の表面移動反応を活性化する方法を与えた。自己触媒作用を発生させる局所水素化構造の決定と、水素との化学反応経路を完全決定可能とする、理論シミュレーションを実施して、自己触媒構造を同定した。そこで、28年度は計画通りの内容がまず実施されて完了した。我々は、このようにして原子層炭素材料の化学吸着・脱離制御の理論を著しく進めた。加えて今年度は、ナノグラフェンのもつ各種の特性も明らかにした。グラフェンのアームチェア端の特性を東京工業大学との共同研究成果として完成し、アームチェア端上でのエッジ状態を生み出す化学修飾方法が実現できることを世界に先駆けて証明した。ナノグラフェン分子VANGにおけるトポロジカル量子効果を解明して、近藤一重項と同定される基底状態が分子変形に対しても安定であることを数理科学的方法も併用して示し、報文を作成・出版した。よって、本研究は明らかに当初計画以上に進展している。 本研究において特許出願を実施した結果、福岡工業大学との連携推進、国内有力化学メーカとの新規産学共同研究実施に目途がついている。また、学術振興会日印事業に関連するインドIACSとの新たな共同研究の展開を原子層物質系での磁性膜構造における新規磁性解明の目途が立ち、基礎工学研究科共同研究講座での爆合ナノダイヤモンドへの研究展開にも波及効果として複合ナノ材料開発の展開が見込まれるに至った。
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今後の研究の推進方策 |
3水素化原子欠損を形成したナノグラフェン構造が示す水素吸脱着自己触媒能力は、水素貯蔵材料開発に全く新たな戦略を提供した。水素化社会へ向けたインフラ整備における経済波及効果を与えうる。新たな知見、物質材料、構成方法、利用方法を、我々は与えている。この方向で、基礎研究段階の新規原子層材料開発ばかりでなく、実用材料提供に向けた実業化プランニングにも、着実な推進方法が選択されることが望まれている。そこで、まず共同研究の推進方策として、国際共同研究、産学共同研究を展開する。具体的には、ナノグラフェンの能力を最大化するための水素貯蔵能を与える炭素材料のより経済的な供給方法を含め、インドにおける研究機関としてその中心地の一つであるIndian Association for the Cultivation of Science (IACS)のSaha教授との共同研究を積極展開する。これは、国内では新たに東工大・NIMS・東北大等の主要機関を巻き込むものに発展しうる。さらに、実業への展開として、村上睦明博士(企業研究者、阪大招聘教授)との協力を進め、大型プロジェクトへの展開も見据えた材料供給方法、反応条件最適化などに取り組むことを計画している。 一方で、ナノグラフェンの物理への新たな知見提供も急務である。従来のジグザグ端におけるエッジ状態の制御に加えて、アームチェア端の利用がこれまでに想定できなかった制御性を示す可能性が見出されているからである。そこで、東工大、福岡工大、関学、筑波大の研究者との協力体制をより強化する。特に、エッジ状態の物理はトポロジカル量子効果として幾何学的保護を受けることから、それに付随する強相関効果を保護するという戦略が、量子エレクトロニクスデバイス、量子光デバイス、新ナノ磁性構造や未知の(超)伝導体開発などの重要な展開をもたらすと考えられる。
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