研究領域 | 原子層科学 |
研究課題/領域番号 |
16H00916
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
樋口 克彦 広島大学, 先端物質科学研究科, 准教授 (20325145)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 原子層 / 磁場 / 強束縛近似 / パイエルス位相 |
研究実績の概要 |
本研究では、近年注目を集めている原子層物質の設計に、外部磁場をパラメータとして加えることを目的としている。具体的には、磁場を含んだ相対論的強束縛近似法(MFRTB法)を基礎に、遷移金属カルコゲナイド原子層物質の外部磁場による物質設計を目指している。 今年度は、MFRTB法で明らかとなる磁場下原子層のエネルギーバンド構造と原子層の磁気的性質の関係を明らかにした。磁場がない場合のエネルギーバンド計算が物質設計に広く用いられていることから考えて、今年度の研究内容は物質設計を行う際に重要な役割を果たすと期待される。 MFRTB法より得られる磁場下原子層のエネルギーバンド構造は、クラスター構造を有していることがわかった。つまり、エネルギーバンドが狭いエネルギー幅に密集したクラスターが形成され、それらクラスターが半古典的な近似から予想されるエネルギー幅で離散的に存在しているようなエネルギーバンド構造になっている。この一つ一つのクラスターが半古典的な近似から得られるエネルギー準位に相当する。クラスター内の微細なエネルギー準位構造により、従来のドハース-ファンアルフェン振動(dHvA振動)に対する理論であるLifshitz-Kosevich (LK)理論では説明できないadditional oscillation peaksが現れることが明らかとなった。また、半古典近似のエネルギー準位に対応するクラスターがエネルギー幅を持つことから、dHvA振動の振幅が減少することも示された。この効果も、半古典近似によるエネルギー準位に基づいたLK理論では説明できないものである。LK理論を誤って用いるとDingle温度またはフェルミ面の曲率の過大評価につながる可能性があることが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
磁場下原子層のエネルギーバンド構造と原子層の磁気的性質の関係の解明は、当初、予定されていなかったことである。ここで得られた知見は、今後、本研究の目的である外部磁場による原子層物質の物性制御にとって極めて重要になると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
[磁場下原子層のエネルギーバンド構造による磁気的物性の記述] 今年度は磁場破壊現象にもMFRTB法によるエネルギーバンド構造を用いた解析が有効であることを示す。よく知られた磁場破壊が、磁場下原子層のエネルギーバンド構造の観点からどのように記述されるのかを明らかにする予定である。 [相対論的スレーター・コスター表の整備] MFRTB法の計算で必要不可欠な「相対論的スレーター・コスター表」は、現状ではs電子とp電子間の相対論的飛び移り積分に対するものに限られている。遷移金属カルコゲナイドに適用するためには、この表を、d電子を含んだ形に拡張しなくてはならない。昨年度に既に着手しているが、今年度はこれを完成させ、すでに開発済みのMFRTB法のプログラムコードに組み込む予定である。 [MFRTB法による磁場下グラフェンおよび遷移金属カルコゲナイドの電子状態計算] MFRTB法を用いて、代表的な原子層物質であるグラフェンおよび遷移金属カルコゲナイドの磁場下でのエネルギーバンド構造を明らかにする。ドハース・ファンアルフェン振動の実験結果などと比較することで、本計算手法で得られた磁場下エネルギーバンド構造と磁気振動の関係についても議論する予定である。 [パイエルス位相を超えた磁場効果の取り込み] MFRTB法では、磁場効果を最低次の摂動論で見積もっている。その結果、磁場の効果はパイエルス位相と呼ばれる磁場に依存した位相因子が飛び移り積分にかけられた形で近似されている。今年度は、磁場効果を二次摂動まで取り込んだ形式にMFRTB法を拡張する。高次の項を取り込むことで、バレー状態を構成している軌道の混成が促され、パイエルス位相を用いたこれまでの理論では表しきれなかった磁場効果の記述が可能となると予想される。
|