公募研究
H28年度は、遷移金属ダイカルコゲナイドの結晶成長と物性解明に関する研究を進めてきた。結晶成長に関しては、光機能の付加やキャリア制御などを目指し、二種類の遷移金属が混在する原子層の作製を目指してきた。化学気相成長を用いて成長が可能な遷移金属の探索を中心に行い、ニオブを含む二硫化タングステンやレニウムを含む二硫化モリブデンの単層などが成長可能なことを見出した。特に、単層ニオブドープ二硫化タングステンについては、塩化ナトリウムを補助剤として用いて800℃程度で化学気相成長を行うことで、数十マイクロメートル程度の単結晶の成長が可能である。試料は、発光分光、ラマン散乱分光、原子間力顕微鏡、走査透過電子顕微鏡などで構造や光学特性の評価を行った。この系では、原料供給レートの違いより、ドープされるニオブの濃度勾配が形成される。光学特性に関しては、ニオブを含まない試料と異なり、ドープした試料は通常の2eV付近の自由励起子由来の発光ピークに加え、1.5eV付近に新しい発光のピークを室温で示す。この発光ピークは、励起光強度が増加するにつれ飽和する特性を示し、不純物サイトに束縛された局在励起子と解釈できる。この振る舞いを定量的に理解するために、3準位モデルにおけるレート方程式を利用してデータの解析を行った。結果として、局在励起子は、自由励起子よりも十分に長いナノ秒オーダーの寿命を持つことが見積もられた。これらの成果は、発光を用いた不純物準位の評価などに利用可能と考えられる。同様の化学気相成長を用いることで、様々な系の遷移金属ダイカルコゲナイド合金の合成が効率良く可能になると期待される。
2: おおむね順調に進展している
異種元素を含む二硫化タングステンや二硫化モリブデンなどの遷移金属ダイカルコゲナイド原子層やそのヘテロ構造の成長技術の確立、および関連する共同研究が進行しており、研究が順調に進展しているといえる。
作製した異種元素がドープされた遷移金属ダイカルコゲナイドの光学特性や電気伝導特性の解明、および他のカルコゲナイド原子層とのヘテロ構造の作製を進めていく。ヘテロ構造の作製では、二段階の化学気相成長を利用していく。この二段階法の問題点としては、二段階目の合成を行う際に、一段階目に合成した原子層がダメージを受けてしまう点が挙げられる。この問題点の対応策として、より低温での合成条件の確立や、急速加熱を用いた手法が挙げられる。上記の課題を解決し、異なる遷移金属ダイカルコゲナイドを自在に組み合わせたヘテロ構造作製の基盤技術の確立を目指す。また、作製した試料について、電気伝導測定や光学測定などを専門とするグループとの共同研究を進めていく。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 5件) 備考 (1件)
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http://www.comp.tmu.ac.jp/miyata/index.html