研究領域 | 原子層科学 |
研究課題/領域番号 |
16H00921
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
野内 亮 大阪府立大学, 21世紀科学研究機構, 講師 (70452406)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 遷移金属ダイカルコゲナイド / 表面修飾 / ヒドロゲル / 液相剥離 / 複層化 / Schottky障壁 / Fermi準位ピニング / エッジ状態 |
研究実績の概要 |
当該領域で強く推進することを目指す複合原子膜積層系は、ゲート制御型トンネル接合といった新規デバイスへの応用展開や、層間相互作用による新奇物性探索といった観点から、大きな注目を集めている。しかし、その作製の現状は、機械的剥離をベースにした手作業で作製効率が低い手法か、2層系までしか報告例が無い化学気相堆積か、である。この現況を打破するため、応募者の有する表面修飾技術を液相剥離原子膜へ適用し、簡便で且つ多層積層化が原理的に可能な手法の開発を目指し、研究を行った。
本年度は、本研究において提案する液相ベースの手法による原子膜複合積層系の作製可能性を検討するため、まずジチオール分子を添加したMoS2分散液で複合化を試みた。溶液調整の試行錯誤により、ある条件下においてはヒドロゲルが形成されることを確認した。これは、複合体形成の成功を意味する結果である。更に、この複合体に対して加熱処理を行った。MoS2分散液を作るにはMoS2の液相剥離を行うが、一般的な手法でできた液相剥離MoS2は主に金属的性質を有し、加熱処理により半導体性質を徐々に獲得することが知られている。複合化の後に加熱した場合には、半導体性の獲得は限られることを確認した。
本研究は、層状物質の中でもMoS2に代表される遷移金属ダイカルコゲナイドを対象とするものであり、チオール系分子は層の面内のカルコゲン元素欠陥や各層の端に特に付着しやすいと考えられる。面内欠陥は結晶成長法の改良により改善できるものと期待されるが、端は不可避のものであるため、その基本的な特性について調査した。これまでに、端に起因する電子状態(エッジ状態)が電子デバイスに必須の電極接合に与える影響を調べたところ、Schottoky障壁の高さが原子膜の端に起因して高くなることを見出した。これは、エッジ状態に対するFermi準位ピニングという現象により理解できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はまず、本研究において提案する液相ベースの手法による原子膜複合積層系作製が、可能であろうということを確認できた。同時に、加熱処理による半導体化は複合化後では困難であることが分かったことで、今後の研究のやり方として、基板表面での単層の状態での加熱処理をまず行う、という方向を定めることができた。このように、異なる原子膜種の積層系までは到達できなかったが、複合化の具体的な道筋を得ることができたと考えている。
また、修飾に用いるチオール系分子がどこに吸着するのか、という点に関し、思考をすすめることで、原子膜の端の重要性を改めて認識した。本研究で提案する手法を電子デバイス応用へつなげるためには、端が電子デバイス特性へ与える影響を知る必要があった。そこで、電極接合への端効果について初めて調査することで、端の持つ基本的な性質を知ることができた。これは当初の研究計画には無かった進展である。
以上を総合的に判断し、上記の自己評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、基板表面に成膜した液相剥離MoS2の単層膜を用い、半導体化を行った後に複合化を進めることを試みる。それにより、半導体性の複合体の形成を達成する。そのために、SiO2基板とカルコゲナイドのどちらにも強固な化学結合を形成する分子(シラン+チオール)を用い、基板表面の当該分子修飾部位への位置選択的な原子膜成膜手法を確立する。更に、ジチオール分子をバインダーとして使用することで、異種原子膜間の結合を促すことができるため、原子膜成膜と原子膜表面修飾の繰り返しにより、異種原子膜複合積層系の作製を試みる。同時に、チオール系分子の吸着様式(面内欠陥への結合、端への結合)に関する知見を、電気的特性の変化などから調査する。特に、端に関して得た知見を更に発展させるため、端に起因する電子状態(エッジ状態)のチオール系分子吸着による制御を試みる。
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