複合原子膜積層系の新たな作製手法の確立を目指し、本研究では、原子膜表面修飾技術を応用した手法の開拓に挑戦している。原子膜の表面を化学修飾することで、異種原子・分子にとっての結合サイトが導入できるため、更なる化学的処理を併用すれば原子膜同士の積層が可能になると期待される。
本年度は、代表的な原子膜であるグラフェンに対して、原子膜支持基板の表面処理による表面化学修飾度合いの向上を試みた。基板表面処理層に永久双極子を有する分子の自己組織化単分子膜を採用することで、永久双極子の向きにより、グラフェン表面修飾度が大きく制御可能であることを見出した。化学反応には電子が大きな役割を示すため、基板表面処理層の双極子による電場が作用してグラフェンの電子密度が変調された結果、グラフェン表面修飾度自体が変調されたと理解できる。
また、代表的な半導体性原子膜である二硫化モリブデンに対しては、チオール基を有する分子による修飾の効果を調査した。チオール系分子は、層の面内の硫黄空孔や、各層の端に特に付着しやすいと考えられる。面内欠陥は結晶成長法の改良により改善できるものと期待されるが、端は不可避のものであるため、前年度に引き続き、端のチオール系分子修飾効果について調査した。多層二硫化モリブデンをチャネルに持つ電界効果トランジスタの動作特性に対し、特に、端の影響が大きくなる狭チャネル素子において、チオール系分子の端への修飾により電気伝導度の向上が見られることが分かった。これは、チオール系分子の結合により、端に起因する電子状態(エッジ状態)が低減され、結果として電子トラップ準位の低減により伝導度が向上したためと理解できる。
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