研究領域 | 原子層科学 |
研究課題/領域番号 |
16H00923
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
清水 直 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 研究員 (60595932)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 物性実験 / 表面・界面物性 / 超薄膜 / 電界効果 / 超伝導 |
研究実績の概要 |
本研究は、グラフェン以外の多様な二次元物質に、電気二重層による電界効果を用いて高密度二次元電子系を形成し、各物質に固有の電子構造と強相関効果を反映した新しい物性・機能性を見出すことを目的とする。平成28年度は、微小な単結晶試料における熱電効果測定の開発と、それをいくつかの材料に適用した。具体的には以下の研究を行った。 ①申請者は28年度の研究を開始する準備段階において、液体中で数mmサイズの試料の熱電効果を測定する方法を開発した[Shimizu et al., PRB 92, 165304 (2015).]。28年度は、この方法を応用し、原子層物質を劈開して得られるマイクロメートルサイズの試料におけるゼーベック効果を測定するシステムを構築した。 ②WSe2や黒リン等の原子層物質におけるゼーベック効果の電界制御を行った。WSe2では両極性動作を観測し、伝導帯と価電子帯においてゼーベック係数のキャリア濃度依存性の系統的な測定を行った。特に重要なのはn型WSe2である。WSe2は、バルクでは電子ドープが難しく、熱電効果の研究が進んでいなかった。しかしながら、本研究で開発した方法により、これまで困難であったn型WSe2の熱電効果測定に成功した。黒リンにおいても、電圧印加により非常に幅広いキャリア濃度域において、系統的な熱電効果測定が可能となった。 ③FeSe単層超伝導の研究を行った。最近、SrTiO3基板上の単層FeSeが100 Kを超える超伝導転移を示すことが確認され、非常に注目を集めている。しかしながら、FeSe極薄膜は、大気中での試料の安定性のために物性測定が困難であるという問題があった。申請者は、電気化学プロセスを利用したその場測定を行うことで、この問題を解決した。 今年度に行った研究成果は、国内学会・国際学会等様々な場所で発表した。また、上記の研究結果は論文雑誌に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究計画は、微小試料における液体中の熱電効果測定の開発と、それを様々な原子層材料へ適用することであった。申請者は研究計画に従った研究を進め、上記「研究実績の概要」に報告したように、WSe2、黒リン、FeSeといった、原子層物質における熱電効果や超伝導の研究を行った。マイクロメートルサイズの試料の液体中での熱電効果測定は、本研究から得られるオリジナルな結果であると言える。以上のことから、「おおむね順調に進展している。」と考える。 平成28年度の実験結果のいくつかはすでに国内外の学会・研究会・ワークショップにて報告しており、また論文として投稿中である。平成29年度はさらに研究を発展するべく、新学術領域内外のメンバーと、新規原子層物質の熱電効果・超伝導に関するさらなる共同研究をスタートさせる。
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今後の研究の推進方策 |
上記「研究実績の概要」および「現在までの達成度」で報告したように、平成28年度は順調に研究を進めることができ、計画は予定通りに進展している。当初の研究計画を簡単に述べると、平成28年度(初年度)は原子層物質の液体中での熱電効果測定技術の開発、および様々な材料への適用、平成29年度(二年目、最終年度)は新規原子層材料における超伝導の研究である。 29年度は、まずは28年度に行った研究を継続して発展させる。具体的には、微小試料の液体中での熱電効果測定に成功したが、これのキャリア濃度、温度依存性の系統的な測定を行い、各物質に固有の電子構造に由来する熱電効果を明らかにする。さらに、新たな材料における熱電効果・超伝導の研究に着手する。現在、新学術領域内外のメンバーとの間で、共同研究に関して調整中である。また、29年度は最終年度であるので、この研究課題で得られた結果を、出来る限り論文および学会で報告する予定である。
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