高真空反応チャンバー内に設置された反応基板(10 or 77K)に水,一酸化炭素,アンモニア,メタノールを5:2:2:2で混合したガスを蒸着させ,同時に真空紫外光を照射した。200時間経過後,ガスと紫外線供給を停止し,反応基板を室温まで上昇させたのち,基板上に残った有機物を水・メタノール混合溶媒で回収した。得られたサンプルはすべてLC-orbitrap質量分析計で分析した。 昨年度はメタノールの重水素置換体としてCH2DOH,反応基板温度を10Kという条件で実験をおこなったが,今年度はCH3OD,あるいは複数種のメタノール重水素置換体の混合ガスを用いて,生成するアミノ酸の同位体組成がどのように変化するか検証した。さらに,反応基板を77Kにして同様の実験をおこない,同位体組成の変化を調べた。 CH3ODを材料として用いたとき,生成したアミノ酸の種類や量はCH2DOHを用いた実験と遜色なかったが,重水素存在量が1/10であった。これは,メタノールのメチル基に含まれる水素が優先的にアミノ酸に取り込まれたことを示す。 反応基板温度が77K,CH2DOHが用いられたとき,アミノ酸生成量が1/10になったものの,グリシンを除く4種のアミノ酸は同位体組成が10Kで得られたサンプルと遜色なかった。一方グリシンは重水素存在度も1/10になり,ほかのアミノ酸とは生成メカニズムが異なることを強く示唆した。 さらに,低質量原始星で観測されたメタノールアイソトポログ組成を再現してアミノ酸を作製すると,CH3OHが最も多いにもかかわらず,重水素置換アミノ酸が多く検出された。これらの結果は,光化学反応では分子の重水素存在度は大きく低下しないことを示す。本研究ではこのように,宇宙における化学進化解明に非常に重要なデータを供することができた。
|