公募研究
地球の海水などにみられる重水素濃縮は低温下での化学反応の名残であると考えられている。濃縮は分子雲のほか、原始惑星系円盤でも起きる可能性がある。円盤内での重水素濃縮がどこでどの程度起きているのかを探るため、 近年ALMA などで重水素化分子の輝線観測が行われ、輝線強度分布が分子種、天体によって大きく異なることが分かってきた。例えば、TW HyaではDCN輝線は中心集中しているのに対して、DCO+ 輝線は外縁部で強い。よってこれらの分子は異なる濃縮反応を受けていると考えられる。一方AS 209ではDCO+とDCNの分布が似ている。このような輝線強度分布の違いが何に起因するのかを探るため、本研究では、原始惑星系円盤において重水素を含む化学反応ネットワークモデルの数値計算を行い、重水素濃縮過程を調べた。重水素濃縮は温度だけでなく水素のオルソ/パラ比にも依存する。本研究では、重水素濃縮に関連する分子のオルソ/パラ比や交換反応の反応速度係数などを更新した最新のネットワークモデルを構築した。研究の結果、以下のことが明らかになった。1.宇宙線が円盤に入れる場合は水素のオルソ/パラ比はほぼ熱平衡になる2.円盤内では領域によって異なる重水素濃縮反応が効く。円盤上層部や内側の温かい領域では、従来注目されていなかったD原子による交換反応も効く。3.従来のモデルはCH2D+による重水素化を過大評価するさらに、低温な円盤中心面においてイオン化率や重水素濃縮度の指標として注目されているH2D+, DCO+, N2D+の存在度を求める解析解を導出し、これらが数値解とよく一致することを示した。このほかに、上記理論モデルをもとにALMAを用いた円盤観測の共同研究、および円盤形成時の有機物進化に関する理論研究を行った。
2: おおむね順調に進展している
当初の目標としていた、H2D+, DCO+, N2D+など重水素化分子の重水素濃縮過程、および中心面でのこれらの存在度を表す解析解を導出することができた。
2017年度は主に重水素化分子や有機分子の存在度とその分布が、円盤内のダストサイズや乱流にどのように依存するかを調べる。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 2件、 招待講演 5件)
The Astrophysical Journal
巻: 835 ページ: 231, 29pp
10.3847/1538-4357/835/2/231
巻: 823 ページ: L10, 7pp
10.3847/2041-8205/823/1/L10
巻: 833 ページ: 105, 17pp
10.3847/1538-4357/833/1/105
Astrobiology
巻: 16 ページ: 997, 1012
10.1089/ast.2016.1484