公募研究
地球の海水などにみられる重水素濃縮は低温下での化学反応の名残であると考えられている。濃縮は分子雲のほか、原始惑星系円盤でも起きる可能性がある。円盤内での重水素濃縮がどこでどの程度起きているのかを探るため、 近年ALMA などで重水素化分子の輝線観測が行われ、輝線強度分布が分子種、天体によって大きく異なることが分かってきた。輝線強度分布の違いが何に起因するのかを探るため、本研究では昨年度に引き続き、原始惑星系円盤において重水素を含む化学反応ネットワークモデルの数値計算を行った。今年度は特に円盤内のダスト成長や乱流拡散による影響について調べた。さらに乱流拡散は有機分子の存在度も大きく変化させると予想されるので、有機分子についても計算結果の解析を行った。研究結果は以下の通りである。1.ダストサイズが小さい円盤では中心面での分子の凍結が激しい一方、円盤表層では紫外線が減光されて分子存在度が高くなる。ダストが成長すると、円盤表層では紫外線が減光されにくいので光解離で分子は壊される。一方、中心面では凍結の影響がやや和らぐ。よって、ダストが成長した円盤では分子輝線強度分布がスノーラインなど中心面の構造や組成を反映しやすく、ダストが小さい場合は円盤表層の寄与が相対的に高くなる。2.乱流拡散は、円盤表層のH, Dなどの原子やラジカルを中心面に運ぶ一方、円盤中心面の化学的に安定な氷分子を円盤表層に運ぶ。よって乱流拡散によって分子が増えるか減るかは円盤内の場所や分子種で大きく異なる。3.HCN, DCNには後者の効果が効く。乱流拡散のない円盤ではHCN, DCNが星に近い領域で昇華することで強く中心集中した輝線強度分布を示すが、乱流拡散のある円盤では中心付近でのHCN, DCNは著しく減少する。またこれら理論研究と原始惑星系円盤や若い円盤の輝線観測結果との比較を行い、観測結果の解釈に寄与した。
29年度が最終年度であるため、記入しない。
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The Astrophysical Journal
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天文月報
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