研究領域 | 宇宙における分子進化:星間雲から原始惑星系へ |
研究課題/領域番号 |
16H00938
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
荒川 雅 九州大学, 理学研究院, 助教 (10610264)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | イオンー分子反応 / クラスター / 分子吸着 / 共給着 / 触媒反応 / 珪酸塩 / 分子進化 |
研究実績の概要 |
申請者ら独自の原子・分子クラスターの研究手法で、分子雲、原始惑星系円盤における有機分子の生成・進化過程と反応機構の解明を目的に実験を行った。宇宙空間に存在する鉱物イオン・ラジカル種のモデルとなる気相の珪酸塩クラスター負イオン(MglSinOm-)を真空槽中に生成し、原子一個の精度で質量選別した後、H2OおよびCO分子との反応を観測した。 一酸化炭素分子との反応では、Mgを含まないクラスター(酸化珪素クラスター負イオン, SinOm-)の場合には、主に一酸化炭素分子の吸着が観測されたのに対し、Mgを含む場合にはCO2の生成が示された。水分子との反応では、Mgを含まないクラスターでは、主に水分子の吸着が観測された。水分子は、分子内にSiO3(OH)四面体を2つ形成するようにOとOHに解離して吸着することが分かった。吸着サイトは、クラスター上に局在した半占軌道(SOMO)の位置に支配されることが明らかとなった。また、水分子の吸着反応速度定数は、一酸化炭素分子の吸着に比べて2桁程度大きかった。一方で、Mgを含む場合には、水分子が吸着した後、1つもしくは2つのO2分子が脱離することが分かった。反応経路の選択には、半占軌道(SOMO)の位置が関与することが見出された。 当初は、鉱物クラスターの水和分子数と反応性の関係を系統的に明らかにすることを目指していたが、水和物を形成するための水との反応自体から、上記の様な重要な知見を得ることができた。水和後の反応や、Mgに代えてFeを含むクラスターの反応を観測することが、今後の課題となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鉱物クラスターの水和過程に着目し、珪酸塩クラスターと水との反応観測から、水和を促進する幾何構造が見出された他、反応経路の選択性における幾何・電子構造の重要性が明らかとなった。また、珪酸塩クラスターと一酸化炭素との反応から、有機分子生成反応の第一段階である一酸化炭素の吸着サイトについての重要な知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
分子上に共吸着した複数の分子の反応を観測し、有機分子の生成過程を見出す。H2OおよびCOやH2との反応を観測するとともに、Mgに代えて、Fischer-Tropsch反応で重要な役割を果たすFeを含むクラスターの反応観測を行う。
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