公募研究
CH3OH, CH3OCH3など6原子以上からなる有機分子、”Complex organic molecules”(COMs)の反応素過程は、星間分子進化の観点から観測・理論ともに注目を集めている。本計画ではCOMsに関わる気相・星間塵表面それぞれの反応素過程の詳細を、理論化学的手法を用いて明らかにする。気相反応素過程では2006年以降発見が続いている星間分子負イオンに着目し、これらの生成・破壊過程や星間化学における役割などの解明を目指す。生成・破壊の素過程としては、これまでRadiative Attachment, Dissociative Attachmentなどが提案されているが、詳細な理論計算は少ない。本計画ではこれまで開発してきた理論手法を発展させて上記過程の反応断面積の精密計算を行う。星間塵表面素過程に関連しては、最近10K程度の分子雲コアにおけるCOMsの観測が注目されている。従来のシナリオでは、これらの分子は30K以上の環境においてCH3OやHCOなどの前駆体ラジカル分子の表面拡散の結果として生成されるが、10K程度の低温環境下では拡散が起きないため計算値が観測値よりも大幅に少ない。反応熱による星間塵表面からの分子脱離過程を考慮することで計算結果が改善されるとの報告が存在するものの、脱離過程の詳細は分かっていない。本計画では量子化学・分子動力学的手法を用いて星間塵表面上での反応熱による生成分子脱離機構の詳細を明らかにし、星間分子進化への影響を調査する。今年度はまず電子・分子衝突理論手法の整備を行った。特に、電子が分子に衝突して振動励起や解離性電子付加を起こす過程の理論的取扱いに関して、電子と水素分子、塩化水素などの衝突を題材としてプログラム開発を行った。一方で星間塵表面過程に関しては、分子動力学的手法を用いてH2O氷表面のモデル化を検討した。
3: やや遅れている
申請時(研究所)と研究開始時(大学)の所属が変化したため、研究環境に大きな変化があった。特に、エフォートに関しては申請時に想定していた量の1/4程度に留まるのではないかと考えている。したがって、計画していたよりも研究計画はやや遅れているのが現状である。
本計画の次年度以降については研究に割けるエフォートが増える見込みであり、申請時の想定に近い形で計画を遂行できるのではないかと考えている。今後の計画については以下の通り。まず、これまで手法開発・応用計算を進めてきた第一原理R行列法の開発を引き続き行い、通常の量子化学計算手法では取り扱うことの出来ない星間分子負イオン素過程の取り扱いを進める。特に、振動・解離など核運動の効果を取り入れる拡張を継続し、HNC3 + e- -> C3N- + H 反応などへ適用する計画である。星間塵表面素過程に関しては、一酸化炭素の水素化経路:CO+H->...->CH3OH の各反応およびCOMs生成に関連するラジカル反応:HCO+CH3O->HCOOCH3などを研究対象とする。これらの素過程に対し、反応経路の精密計算(核運動の効果を考慮しない静的な計算)を行い、反応に関与する分子の表面吸着(脱離)エネルギー・遷移状態エネルギー・反応熱など、星間塵表面での分子生成モデル化で中心となるパラメータを精査し実際に利用されている値との比較を行う。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (1件)
Journal of American Chemical Society
巻: 138 ページ: 6617 - 6628
10.1021/jacs.6b02968
Journal of Physical Chemistry C
巻: 120 ページ: 17887 - 17897
10.1021/acs.jpcc.6b04827