研究領域 | 宇宙における分子進化:星間雲から原始惑星系へ |
研究課題/領域番号 |
16H00941
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
橋口 未奈子 九州大学, その他部局等, 特任助教 (80770627)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 隕石有機物 / アンモニア / 窒素同位体交換 |
研究実績の概要 |
研究項目 A02 (原始惑星系実験班)では、原始惑星系に存在する固相有機物の形成と進化を明らかにすることを目的としている。本研究では、隕石に含まれる有機物、特に重い窒素 (15N)に富む特徴 (窒素同位体異常)をもつ有機物に着目する。 このような同位体異常をもつ有機物は、形成後、原始太陽系星雲や隕石母天体上での変成や変質をほとんど受けていない始原的な有機物であると考えられるため、有機物の形成や進化過程を解明するために非常に有用な物質であるが、その起源は明らかでない。本研究では、初期太陽系の低温領域で形成されると考えられている15Nに富むアンモニアガスと有機物の窒素同位体交換によって、15Nに富む有機物が形成される可能性について、実験的手法を用いて検証することを試みる。
今年度の研究実績は次のとおりである。 1. アンモニアガスとの窒素同位体交換反応実験を実施するため、ガスー固体間アニール装置の立ち上げを行った。 2. 窒素同位体交換反応実験に用いる有機試薬の選別を行うため、ガスよりも扱いが容易である液体のアンモニア水を用いて窒素同位体交換実験を行った。隕石から報告されているまたは星間氷へのUV照射実験で確認されている窒素 (N)を含む有機化合物について、15Nに富むアンモニア水と合成試薬を100 ℃ 1週間の条件で加熱した。実験は密閉バイアル容器を用いた閉鎖系で行った。液体またはガスクロマトグラフィー質量分析により、反応前後における有機試薬の窒素同位体比の変化を調べた。アミノピレン、シアノフェナンスレンでは、窒素同位体交換が確認されなかった。一方で、ヘキサメチレンテトラミンでは、優位な窒素同位体交換が生じることを明らかにし、室温においても窒素同位体交換が生じていることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
アンモニアガスー有機物間の窒素同位体交換実験を行うに際して、アンモニア水を用いた標準有機試薬との同位体交換反応実験において、当初想定していた複数の有機化合物試薬では窒素同位体交換が見られず、ガスとの反応実験に用いる最適な試薬の選別に時間を要したため。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策を次に示す。
1. ガスー固体間アニール装置を用い、有機試薬と15Nに富むアンモニアガス間の窒素同位体交換実験を行う。有機物は、ガスあるいは液体クロマトグラフィー質量分析による窒素同位体組成比測定を行う。 2. 反応前後のガスの有機化合物種および窒素同位体組成の測定法を確立する。反応前後の固体およびガスの有機化合物種、窒素同位体組成の変化から、反応経路を推定する。温度・時間条件を踏まえ、初期太陽系の温度・タイムスケールで同様の反応が生じうるかを議論する。 3. 隕石から抽出した有機物について同様の実験を行い、赤外分光分析により有機化合物の変化と窒素同位体比の変化を調べる。
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