研究領域 | 宇宙における分子進化:星間雲から原始惑星系へ |
研究課題/領域番号 |
16H00943
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研究機関 | 特定非営利活動法人量子化学研究協会 |
研究代表者 |
中嶋 浩之 特定非営利活動法人量子化学研究協会, 研究所, 部門長 (80447911)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | シュレーディンガー方程式 / Non-BO計算 / 星間分子 |
研究実績の概要 |
本研究は、シュレーディンガー方程式の正確な解法(自由完員関数法)や、励起状態の精密量子化学理論(SAC-CI法)を星間分子群に適用し、精密な量子化学の立場から宇宙の物質科学の諸問題に取り組むことを目的としている。宇宙の星間分子で特に重要な役割を果たしている水素関連化合物は、原子核の運動を量子的に扱う正確なNon-Born-Oppenheimer (Non-BO) 計算が本質的に重要である。これまで、分子のNon-BO計算理論の開発や解析的なポテンシャルカーブを得る方法を発展させ、H2分子やその同位体、その他簡単な二原子分子のNon-BO計算に応用した。Non-BO計算では、電子・振動・回転励起状態が同時に直接得られ、それらの励起エネルギーは宇宙での観測や模擬実験の結果と直接対応するものである。特に、電子励起状態に対する精密なNon-BO計算は、先行研究もほぼ皆無であり、本研究で初めて精密な解の創出に成功した。また、Non-BO波動関数から同位体効果を含むポテンシャルカーブを世界で初めて導出した。極低温化など量子効果が本質的な宇宙の化学反応やトンネル効果を研究する上で役立ち、重要な成果である。今後は、これらの成果を、星間分子雲内の反応や星間塵上の表面反応にも応用していきたい。また、これまで、SAC-CI法を利用して、Diffuse Interstellar Band (DIB)等の未解決観測スペクトルの候補として考えられる、地球上では不安定な幾つかのアニオン分子の励起状態の計算を行ってきた。今後もこの研究を継続し、様々な不安定星間分子種・イオン種(特にカチオン, アニオン)の精密な励起状態計算を進め、理論スペクトルデータベースとしてまとめ、DIBの候補として提案していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H28年度は、Non-Born-Oppenheimer (Non-BO)計算における解析的なポテンシャルカーブの方法を発展させ、同位体効果を含むポテンシャルカーブの導出を行った。通常のBO近似におけるポテンシャルカーブでは、原子核の質量をポテンシャルカーブに直に反映させることはできないが、Non-BOポテンシャルカーブでは自動的にその効果が反映される。これを、最も単純な水素分子イオン同位体(H2+, D2+, T2+)と、H原子核の1/9程度の質量のμ2+や、逆に質量がH原子核の20倍の仮想粒子M(20)2+のポテンシャルカーブも計算した。最初の予想通り、質量が重いM(20)2+のポテンシャルカーブは、質量が∞とみなされるBO近似のカーブとほぼ重なり、逆に質量が軽くなるほどBO近似のカーブからのずれは大きく、特に量子効果が際立つμ2+のカーブは大きくずれている。宇宙の極低温下の化学反応は、このような微小な同位体効果も無視することができず、同位体によって化学反応の特性が変わることも予想される。特に、水素が関連する化学反応を、精密なNon-BOポテンシャルカーブを元に見直すことが重要であり、今後はトンネル効果の検証などにも応用していきたい。H28年度は、Non-BO計算の応用を進めたが、その他の星間分子の研究を進めることができなかった。そのため、(2)おおむね順調に進展している、と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、これまでに引き続き、シュレーディンガー・レベルの量子化学理論(自由完員関数法)を星間分子の計算に応用する。特に、原子核の運動の量子効果を取り入れたNon-Born-Oppenheimer (Non-BO)計算を進め、宇宙の観測や模擬実験のスペクトル等と直接比較できる精密理論データを提供する。我々のオリジナリティであるNon-BO波動関数からのポテンシャル曲線の計算も進め、それに基づき、水素関連化合物の化学反応やトンネル効果の検証も行う。また、実験困難な不安定星間分子種・イオン種(カチオン, アニオン)の精密理論スペクトルの研究を進め、未知の星間分子種の同定に向けて精密な理論スペクトルを計算する。ここでは、申請者の研究所で同様に開発されている励起・イオン種の計算を得意とするSAC-CI法も併用する。また、アミノ酸のホモキラリティとCDスペクトルに関連した研究を行う。
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